これはひどい粗悪ムーブメント
こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう!
今回は私が遭遇した粗悪な機械式ムーブメントの恐怖をお伝えする。
噂には聞いていたが、粗悪な廉価ムーブメントは、一度ばらしたら元に戻すことが難しいため、時計師も手を出さないという。
この時もいつも通り、メンテナンスを実施していくつもりで、分解を試みた。
外観や裏蓋に特に気になるところはない。リューズを巻いた時の感覚から機械式ムーブメントであることは間違いない。この時点で不動の上、時刻調整不可の状態であった。
素材的にもステンレスを使用しており、高級感まではないが粗悪な感じはない。裏蓋の9時の位置には丁寧にそれっぽい隙間や突起までついている。
まずは分解してみよう
いつも通り裏蓋を開けていく。
正直この時直感した。
「ああ、だめだコレ」
機械式ムーブメントにプラスチックを使うと大抵ろくなことにならない。
しかもただでさえ限られたスペースの腕時計のケースなのだ。
巨大なプラスチックスペーサで埋めている時点で、流用か間に合わせの設計であることは明らかだ。
プレートの処理、光沢、形状どれをとってもいい予感がしない。
外装とのギャップが激しいところに悪意すら感じる。これがかつては稼働していたというのか。
気を取り直してスペーサを外すと期待を裏切らない粗悪な天輪がちらついていた。
しかも丸いケースに異形ムーブメントだ。やはり別の形状に合わせて作ってある。
まあ、見た目だけの可能性もあると一縷の望みをかけてオシドリを緩め、ムーブメントをケースから取り出す。
文字盤と針など外観はある程度見れる品質であるのアンバランスさが不思議だ。
剣抜きで針を抜いていく。
針が外れたら文字盤を外していく。
なんだと?通常文字盤はムーブメントのサイドからねじ留め固定されているものだが、これは文字盤板金を折り曲げで固定されている。
この構造からして、このムーブメントはメンテナンスを想定されていない使い捨ての機械式ムーブメントである。
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広告もうだめだけどもう少し分解してみる
文字盤を外すと多くの部品がバラバラと外れていく。
日付表示リングを外す。こんな構造なのに金の縁取りまでついている手の凝りようである。
もう何のための歯車か考えるのもおっくな構造である。
ゼンマイを収めている香箱は、オープンなうえに、外した途端にゼンマイがはじけそうである。角穴車も確実にネジ固定ではない。
天芯にすらルビーの入っている様子もない。
もう無理見てられない、捨てよう
ツツカナを外したところで、私の心が折れた音がした。
これだけのものを文字盤の板金の折り曲げで固定されているのだ。到底もとに戻せるようなものではない。
これは、これ以上現存させてはいけない。そう思った時にこころが折れた。
このコンセプトの時計は現在では、クォーツ時計一択であることから、とてもレアなムーブメントであるともいえるが、とてもではないが見ていられない。
まともなムーブメントはネジ一つ外す際に幸せな気分になれるものだが、気持ちの伝わってこないムーブメントは、メンテナンスする気が失せる。
しかしながら、ここまでの品質のムーブメントを組み上げるのは並大抵の技術ではない。はっきり言って、超高度な組み立て技術である。
高精度に加工され、コストをかけて設計されたものは、組み立ても容易であり、大量生産を行うことで、価格を下げることができる。
この使い捨てムーブメントは、設計、加工のコストを省くあまり、組立コストを無視しているとしか思えない。
二度とお目にかかりたくないムーブメントであるが、こんな作り方もあるのかという勉強にはなった。
それではまた。