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グランドセイコーの機械を搭載したキングセイコー

GSとKSのダブルフラッグシップ

こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう。

今回は、キングセイコーというモデルについて紹介していく。

グランドセイコーは効いたことあるけどキングセイコーって何物なのか。

ざっくりいうとグランドセイコーと同じムーブメントを搭載した廉価版である。

廉価版という表現が正しいかはわからないが、価格的にはかなり抑えられたものとなっている。

グランドセイコーがリリースされる1960年までは、ロードマーベルがセイコーのフラッグシップであった。

ロードマーベルから、さらに精度と信頼性を高めたモデルがグランドセイコーである。

そのグランドセイコーに続いて、1961年にキングセイコーが発売された。

しかし、同一ムーブメントを搭載してした2モデルはどのようにすみ分けていたのだろうか。

当時の販売価格でいえばグランドセイコー25,000円ほどに対し、キングセイコーは15,000円ほどであった。

当時の公務員の初任給が月額13,000円ほどであったことから、どちらも十分に高級機であったことが伺える。

そして、外装パーツと調整工程に違いがあったとされている。

しかし、ここで不思議に感じたのが、これだけの差分で、ここまでの価格の差分が生じるのかということだ。

約10,000円の価格差は相対的にGSが約50%高、人件費、時給100円でざっくり換算すると100時間ほどになる。

そうすると、以下は推測であるが、2通りの可能性が考えられる。

  • 1台100時間近くかけて全部品を目標寸法に合わせ込む調整が実施されていた
  • 仕上がった部品を測定、選別して基準に達したしたもののみをGSに組み込んでいった

個人的には後者の可能性が高いと感じている。

グランドセイコーの部品の検査基準が厳しく、使えなかった部品が余ったのではないだろうか。

どちらかといえば、その程度の歩留まりは想定済みであったと考えるほうが自然である。

そのため、検査基準を緩くした部品はキングセイコーに組み込んで販売し、全体のコストを下げたのではないかと考えている。

なぜならセイコーは一貫して実用時計を作るという方針があるからである。

高価すぎる時計は実用時計とは言えない。

真実は当時の中の人のみが知るところであろうが、そんなロマンも含めてマニファクチュールの魅力であるといえる。

そんな中で生まれたキングセイコーはムーブメント別に5種存在している。

これらの大好きなキングセイコーを個人的な主観と好みを織り交ぜて紹介したいと思う。

豪華な初代キングセイコー

まず紹介したいのは初代キングセイコーである。

ファーストキングセイコーとも言われているモデルだ。

デザイン自体は昭和っぽいという感じで、見る人によっては特筆すべきものはなさそうだ。

金色のボディも現代においては珍しく、シルバーが悪目立ちせずに無難であるだろう。

そうなってくるといったい何が高級機なのか、理解に苦しむところである。

しかし、このころの時計はコストのかけどころが現代とは大きく異なるのである。

ざっくりいうとデザインはほぼ共通で、見えないところにこだわってコストをかけているような傾向がある。

具体的には、構成材料と各部品の仕上げである。

その違いはとても分かりにくいため、現代の時計と比較すると真逆である点が興味深い。

その傾向の原因の一つは時代背景的にまだ金などの価格や人件費が比較的高くなかったということもあるかもしれない。

現代において同仕様での製造は当然可能であるが、ビジネス的には成り立たないのではないかと思う。

まず、文字盤に使われているインデックスは18Kか14K無垢材(SD文字盤の場合)である。

現代ならば、触りもしない文字盤のインデックスなど迷わず金メッキを選択するだろう。

ある程度厚みをつけてしまえば、見た目など一緒だからだ。

続いてケースも18K金貼り100μmが標準仕様である。

これはさすがに無垢とはいかないようだが、金箔が厚み約0.1μmであるので、100μmとは金箔約1000枚分の厚みといえる。

これは、薄すぎるとすぐにはがれてきてしまうので、ある程度の厚みは必要であろう。

それでも、懐中時計の高級機種でも60~80μm程度の金貼りが多いことを考えると豪華な仕様である。

もちろんムーブメントの仕上げも豪華さを感じる仕様である。

この時代の人工ルビー25石の使用は間違いなく高級機である。

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洗練された44キングセイコー(2nd)

1964年に発売されたのが、44キングセイコー、セカンドキングセイコーとも呼ばれているモデルだ。

このモデルの特徴は初代をベースに洗練されたデザインと高機能化への挑戦だ。

デザイン的には、SEIKOのロゴを植字とし、ラグも太く、多面カットが入り、インデックスにも立体感が与えられている。

このようにデザインという面では大きく前進したといえる。

一方で、外装の素材については、初代では18Kか14K無垢材だったインデックスも硬質金メッキであるAD文字盤に変更。

ケースも80μmの金貼りに静かに変更されている。

推測するにコスト低減対策か量産化対策の結果であろう。

機能的には秒針規制機能と防水機能の追加である。

特にフラッグシップに秒針規制機能は必須と考えたようで、その思いが伝わるようなムーブメントが存在していた。

初期型には秒針規制機能を無理に足したような鎌型の機構が見られる。

実に斬新であるが、さすがに無理があったのか、後期型からは改善され内部に組み込まれている。

ムーブメントについては、秒針規制追加以外に初代からほぼ変更がないように見える。

また、防水機能の強化として、一部スクリューバックの防水モデルもラインナップされていた。

スクリューバックの防水ケースは豪華さや高級感というよりは、スポーツ色が濃くなるので、スポーツモデルとしてラインナップされただろう。

このように、デザインと機能向上と同時に外装の原価低減が垣間見えるが、ムーブメントは基本的に初代を引き継いだ豪華仕様である。

このあたりにも、まだ腕時計はムーブメントがメインであったことが伺える。

結果として全体としてはデザインと機能、高級感のバランスの取れたよいモデルである。

多くの意味で現代の認識において、実用といえるのは44キングセイコー以降のモデルであるといえる。

事実、キングセイコーの復刻版に選ばれたモデルが、この44キングセイコーのスクリューバックモデルである。

精度への挑戦45キングセイコー

4年後の1968年には45キングセイコーが亀戸精巧舎から発売された。

キングセイコーとしては最後の手巻きモデルとなる。

ただし、このモデルは他のキングセイコーとは一線を画す。

そもそも、構造的に売るために量産したとは考えづらく、このモデル以外にに45系ムーブメントの設計は流用されてはいない。

しかも、デザインは素晴らしいと思うが、44系にまであった素材からの高級感は一切感じられない。

とても、質素な腕時計であるといえる。

大きな特徴としては、クロノメーター規格の10振動ムーブメントを搭載したことである。

SEIKO長い歴史を振り返っても10振動ムーブメントはそれほど多くない。

昭和でいえば、本機と3代目ロードマーベルに搭載されたムーブメントの2機種のみである。

中でも45系ムーブメントはコンクールに勝利するためだけに生み出されたムーブメントにしか見えない。

言ってみれば、時計界のホモロゲーションモデルのような位置づけだったと推測する。

事実、後述する自動巻き機能を備えた56キングセイコーも同年に販売されている。

当時のセールスマンもあえて45KSを勧める理由はなかっただろう。

そして、申し訳ないが、使い勝手と設計思想から実用時計としてギリギリの設計だったといわざるを得ない。

一例としては本機は手巻き時計であるのだが、ゼンマイを巻くだけでは起動しない。

リューズを引き出し、再度リューズを押し込むことでテンプに初速を与えて初めて起動する。

さらには、10振動テンプを稼働させるためにハイトルクゼンマイを採用。

万が一そのハイトルクゼンマイが切れた際には香箱や輪列を破壊するほどのエネルギーを秘めている。

そのため、ゼンマイが切れたものや香箱や輪列が破壊していた個体が多く存在しただろう。

しかも、ハイトルクゼンマイは特殊な寸法であるため、現在ではゼンマイの入手も一苦労である。

ムーブメントの詳細は別ページでも紹介しているので興味のある方は参考にしていただきたい。

ネガティブな面を多く書いたが、それと同じくらい魅力にあふれたモデルでもある。

類まれな10振動の発するその稼働音は「チチチチ」と連続音となる。

同時に秒針の運針は細かく滑るような運針になる。

またそのケース形状も特徴的である。

セイコーデザインを具現化したようなケースデザインは、鋭く日本刀のような美しさであると感じる。

ケースの角が尖っていればいるほど魅力的になるケース形状である。

現在ではより洗練されたデザインのセイコーデザインのケースがあるが、こちらの力強さも魅力的である。

また、このモデルからステンレスケースがメインとなっているようにも感じるので、メタルベルトも似合うだろう。

個人的には最も好きなモデルである。

とにかく売れた56キングセイコー

1968年45キングセイコーと同年に諏訪精工舎から発売されたのが56キングセイコーである。

45キングセイコー同様にクロノメーター規格に合格できる実力のムーブメントだが、その仕様は全くの別物である。

この56系ムーブメントは、本格的に量産化に取り組まれた機種であると推測される。

  • 自動巻き
  • 8振動
  • 曜日表示

これらの新規機能を搭載し、ビジネス的な要素も十分に考慮されたモデルである。

実際に同型ムーブメントを搭載するロードマチックと併せて相当量販売されたと推測される。

このコンセプトはセイコー5と通じるものがある。

56系のモデルから現代の機械式時計に求められる機能のほぼすべてがそろったといえる。

非常に惜しいのが、曜日表示と日付表示のクイックチェンジ機構に不具合を抱えていることである。

この時期はプラスチックの使用が流行っていたのだろう。

クイックチェンジ機構の一部にプラスチックが使用されていて、ノウハウ不足のためかここが割れるのだ。

以降の52ムーブメントでは、この部分にプラスチックの使用が見られないことから、結果がフィードバックされたようだ。

しかしながら、デザイン、機能、コストのバランスが素晴らしいモデルであり十分に魅力的であるといえる。

とてもわずかだが、曜日と日付表示のないものも存在するので、そちらはクイックチェンジ機構の故障を気にせず使用できる。

個人的には、アンティーク時計において、その程度の故障を気にする必要はないと思っている。

後にVANACシリーズが発売され、実に多くのデザインを生み出した名機といえる。

現行機並みの信頼性52キングセイコー

3年後の1971年に亀戸精巧舎より発売された最後のキングセイコーはこの52系ムーブメントを搭載したモデルだ。

そして、悲しいことに、このモデルの立ち位置は非常に微妙だ。

なぜなら1969年にセイコーからあのアストロンが発売されたからだ。

クォーツショックの中、機械式時計は次第に淘汰されていく。

クォーツショックとは平たく言うとクォーツ式腕時計の量産化による機械式腕時計の全否定である。

何百年も取り組んできた機械式時計の精度への挑戦というロマンをすべて軽々とクリアしてしまったのだ。

そんな逆境の中だからこそ生まれた完成度の高い機械式時計。

それが52系ムーブメントである。

このムーブメントの信頼性は4S系として平成の世に復活した経緯からも伺うことができる。

4S系は4R、6Rよりも高級ラインとしてラインナップされていた。

このモデルには大きな弱点という弱点が見当たらない。

強いて言いうなら、手巻きの感触がよくない、というより異常に重いくらいだろうか。

薄く小型で正確で量産可能という優等生だ。

特に薄型、小型という特徴は、ケースデザインの自由度を上げる要素である。

昨今の大型時計ブームとクォーツムーブメントの台頭で忘れがちであるが、小型、薄型の機械式時計は実に少ない。

4Rや6Rでは実現できないサイズを実現できるムーブメントがこの52系である。

52キングセイコーも例にもれず、自動巻きとは思えないほど非常に小型かつ薄型である。

56キングセイコーと比べても小さく見えるほどだ。

これはひとえにレディース時計を多く設計した亀戸精工舎のノウハウのなせる業であろう。

過去にはゴールドフェザーという超薄型ムーブメントも開発している。

あと、蛇足であるが、このころは海外時計をはじめとしてエキセントリックなデザインが流行っていたのであろう。

56と52においては「VANAC」といわれるイロモノシリーズがラインナップされた。

現在では作られることのない不思議なデザインが多くあり魅力の一つである。

復刻版キングセイコーでその魅力を再現

2000年には2000台限定で44キングセイコーのスクリューバックモデルが発売された。

どれほど人気があったかは定かではないが、価格は当時と同等程度のものがつけられていた。

今後はレギュラーで復刻されるらしいので、アンティークは神経を使うため面倒という人は試してみるといいだろう。

現行機の最大のメリットは部品が容易に手に入るため、公式メンテナンスが受けられることだ。

これはとてもありがたいことで、わざわざ古いものを使う理由は少ない。

面倒くささを超えたところに魅力を感じられる人は、ぜひ当時モノと比較してみてほしい。

特にムーブメントの差分は大きいと感じるだろう。

いつでもスマホで時間を確認できる現代だからこそ、輝く魅力がアンティーク時計にはあると感じている。

そんな時に、グランドセイコーとはまた一味違った立ち位置のキングセイコーは味があると感じている。

今回はここまでとする。

少しでも参考にしていただければ幸いである。

今後ともメンテナンス情報について発信していくのでよろしく。

それではまた。

まとめ

  • グランドセイコーとのダブルフラッグシップ
  • 機械式時計の時代を象徴するモデル
  • 復刻版でその魅力は再現される
  • 現代にこそ、その魅力は輝く
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