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45グランドセイコーとキングセイコーの尖り具合

とにかくスペシャルすぎるムーブメント

こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう!

今回はあまりにスペシャルなムーブメントであるセイコーの45系ムーブメントを紹介する。

この45系ムーブメントは当時のグランドセイコーとキングセイコーに搭載されていた。

その後のモデルには、派生を含めて一切搭載されることはなかった。

当時の本気が現代でも異様な輝きを放っているそんなモデルであるといえる。

マーベルで国産時計は、ついに世界水準に追いつき世界を驚かせた。

続くロードマーベルでは、国産初の高級機を作り上げた。

マーベルを改良したクラウンとクロノスでは精度と品質を大幅に向上した。

ここまでで、セイコームーブメントの基本はほぼ完成したといっていい。

ライナーでは、クラウンムーブメントの薄型化をおこなった。

マチックでは、ライナーの薄型ムーブメントにハンマーを取り付け量産型自動巻きの土台を作った。

ここまでのムーブメントでSEIKOの量産型機械式時計のラインナップはすべてそろったといえる。

車でいえば、普及機から高級機、小型機から大型機までフルラインナップがそろってしまったのだ。

しかし、セイコーの勢いは止まらない。

ものすごく尖ったムーブメントをいくつか送り出した。

その中の一つがこの45系ムーブメントである。

以下にとんがりポイントを挙げてみる。

  • 驚異の10振動機
  • ハイトルクなゼンマイ
  • テンプ蹴りだし機構

45系ムーブメントは亀戸精巧舎の開発したムーブメント

45系ムーブメントの起源をたどれば、亀戸精巧舎のクロノスであろう。その最終形態がこの45系ムーブメントであるといえる。

亀戸精工舎といえば、女性向けのモデルを多く生産していた工場である。一見すると男性向けのモデルを多く生産していた諏訪精工舎の売り上げやムーブメントのほうが成功を収めていたように見える。

しかし、腕時計の世界ではどうしても女性もののほうが、ビジネスとしては難しい。

それは、男性にとって腕時計は、数少ないアクセサリーであるが、女性にとって腕時計は数あるアクセサリーの一つに過ぎないからだ。

女性が腕時計の他にお金をかけるべきアクセサリーは無数に存在し、腕時計にばかりお金をかけていられないという現実がある。

それに対し、男性が腕時計の他に身に着けるものは、結婚指輪かネクタイピンかカフスボタン、ラペルピン、万年筆ぐらいだろうか。その中でいくらでもお金をかけられる腕時計は、投資対象にすらなり得る。

そのため、そもそもの見込みの市場規模が異なるのである。

そして、腕時計の精度に注目すれば男性用の腕時計のほうが比較的優れている。それは、単純にサイズが大きいから精度を出すのに有利なだけである。

むしろ腕時計のサイズに注目すれば、男性用の腕時計に対し、女性用の腕時計は圧倒的に小型である。機械式時計の設計と製造を考慮すると女性用のほうが圧倒的に高レベルのものが要求されるはずだ。

つまり、技術的に難易度が高い時計を生み出し続けていたのは亀戸精工舎であるとの見方もできる。

そんな小型の制約から解放された亀戸精工舎の作り出したムーブメントは傑作品や尖ったものばかりだ。

現在のSEIKO主力製品である7Sや4R、6R、4Sに至るまで量産されているのは亀戸精工舎が生み出したムーブメントである。

これだけで、その基本設計の完成度の高さが伺い知れる。

そんな亀戸精工舎の生み出した超とんがりムーブメントが45系ムーブメントなのである。

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圧倒的な気合が漂う10振動機

そんな45系ムーブメントのわかりやすい特徴は10振動のテンプを採用したことである。

ひとつ前の44系ムーブメントが5振動であることを考えると、もはや別モノである。

10振動の振り子自体は、クォーツ時計が存在する現代において、さして意味のあることではない。

しかし、機械式腕時計しかなかった当時は驚異的であったろう。

このムーブメントでセイコーはスイスで行われていた天文台クロノメーターコンクールに殴り込みをかけていった。

そして、現在においても10振動のムーブメントは数えるほどしかない。

これは技術云々の話もあるが、単純に耐久性とコストの問題であろう。

特に5振動のムーブメントであっても通常の使用に支障はない程度の精度は確保できる。

そのため、現在にける高振動ムーブメントは商品差別化の手段として使われている感が強い。

それでも秒針の運針は5振動機とは違うものとなるので、まったく体感できないわけでもない。

好みと趣向で選べばよいとは思う。

しかし、この必要に迫られて生み出された45系ムーブメントを見てみると、並々ならぬ情熱を感じる。

フルカバードに近いルックスは、もはや妖気といってもいい雰囲気すら感じる。

そう、他のどのムーブメントにも似ていないのだ。

ちなみに蛇足であるが、型式の下にムーブメントシリアルナンバーが入っているものはクロノメーター機である。

各部品とも選別済みのさらにスペシャルなものである。

およそ余った在庫を回したものと思われるが、シリアルナンバーが表示されていたらラッキー程度に思っておこう。

部品選別を行っているものは、グランドセイコーと同一かそれ以上の機械であるといえる。

ただし、通常のキングセイコーとして販売されているということは、調整工程は一部省かれている。

まあ、50年以上前のムーブメントに部品選別や調整工程など無意味でしかないので気にしなくてもよい。

危ういほどハイトルクなゼンマイ

別記事で書いたように振動数の向上は容易ではない。

根本的な基本設計から見直さなければならないほどのインパクトがある。

そのため、45系ムーブメントに似ているムーブメントは存在しないし、共通部品もほぼないといっていい。

通常はゼンマイやテンプASSYなどは他の実績あるムーブメントから流用してもいいものだ。

しかし、この規格外のムーブメントは専用設計の部品ばかりである。

それを物語っているのが巨大な香箱(1番車)に収められたハイトルクゼンマイである。

どのくらいハイトルクかというと、ゼンマイが切れた際は香箱を破壊するほどだ。

10振動かつ駆動時間を稼ぐために、大型の香箱とハイトルクなゼンマイが装備された。

結果として伏石は意味をなさず、潤滑油はグリス指定の場所すらある。

しかし、このムーブメントの最も特徴的な箇所は、この規格外のハイトルクゼンマイを用いても、駆動を始めないことだ。

通常のムーブメントはゼンマイを巻いてやれば、あとはわずかな振動でもあれば時を刻みだす。

しかし、このムーブメントはゼンマイを巻き切ったところで、いつまでたっても微動だにしない。

通常であれば壊れてるんじゃないかと思うほどの状態だ。

秒針規制兼テンプ蹴りだし機構

テンプ蹴りだし機構、そんなものは通常の機械式ムーブメントなら必要ない。

まさに意味不明な機構である。

リューズを引いた状態で秒針を止める秒針規制機構はSEIKOでいえば44系ムーブメント以降において、通常の装備である。

しかし、そんな機能とは別に、このムーブメントを起動するためには、ある程度ゼンマイを巻いた状態で、テンプを振り始めるための初速を与えてやる必要があるのだ。

それは、ハイトルクゼンマイを用いても駆動しきれないほどの強力なヒゲゼンマイが装備されているためだ。

その初速を与える力は、なんとリューズを押し込む際の力をテンプに伝達しているというトンでも機構である。

しかもわざわざ3リンク機構を経て、ムーブメントを半周してテンプ蹴りだしている。もう気合がすごい。

これが、後付なのか最初から意図されていたものかは微妙なところだ。

しかし、そんなことは基礎計算の時点で明確にできるので、織り込み済みの機構ということになる。

そこまでして、10振動にこだわらなければならないムーブメントであったのかと感じる。

だが、悲しいことに切れないゼンマイのはずが、切れてる個体が多いのも事実だ。

この現状はこのテンプ蹴りだし機構と無関係ではないだろう。

ゼンマイを巻いても起動しない場合、通常はゼンマイの巻きが足りないのではないかと思うはずだ。

そして、さらに巻き上げ動作を繰り返したのだろう。

想定外の付加を受けたゼンマイは切れる可能性が高まる。

そして、この規格外のゼンマイは一般には流通していない。

プロでも扱いたくないムーブメントのトップクラスであることは想像に難くない。

私がプロでも断るだろう。

10振動の駆動音を感じられる感動

10振動ともなるとその最大の特徴は、他では聞けない独特の駆動音だ。

1秒間に10回アンクルにガンギ車が衝突している。

「チチチチチチ」と常にせわしない感じで駆動する。

これと秒針の運針以外は、10振動を感じることはないだろう。

大トルクと絶え間ない振動、回転スピードでオイルや回転軸は摩擦にさらされ続ける。

とても機械的負担の大きいムーブメントなのだ。

そのため、こんなスペシャルなムーブメントは今後作られることはないだろう。

そんな45ムーブメントと対照的にロードマーベル36000は常識的な構造で正常進化したものである。

10振動機であればロードマーベル36000をお勧めする。完成度が段違いだ。

現行品でもグランドセイコーに一部10振動機が存在する。

予算が許すのであれば、やはり現行機がアフターサービス含めて安心して使用できるだろう。

しかしながら、こんなスペシャルな雰囲気を楽しめるのもアンティークの魅力の一つだ。

いつ壊れるかわからないムーブメントをドキドキしながら使用するのもスリルがある。

ゼンマイが切れて内部破壊する日は、明日かもしれないし今日かもしれない。

そんな思いで、今日もゼンマイを巻く。

なんか歯車がやたら多い

この45ムーブメントを分解してみると奇妙なことに気づく。

サイズ的な問題か、トルク的な問題かは定かではないが、歯車の数がもの凄く多い。

しかもムーブメント面積の1/5程度に歯車が押し込まれている。これは以上な光景だ。

通常は1~4番車とガンギ車の5つの歯車で輪列が構成されている。

しかし、この45系ムーブメントはさらに3つも歯車が追加されている。

大型のハイトルクゼンマイのため、回転数を抑えた結果、加速歯車が2個ある可能性がある。

もう2つはゼンマイが切れた際の輪列を守る安全装置の歯車だろうか。

テンプ蹴りだし機構のリンクも輪列のスペースを大きく削り込んでいる。

あと、当たり前であるがガンギ車の足が5振動機の2倍ある。

ムカデみたいで実に気持ちわるい。

そんな歯車の配置までスペシャルな設計になっているムーブメントだ。

流線形デザインから直線デザインに

続いて、デザインを見てみよう。

前モデルの44系までは、クロノスから始まる流線形を基調としたムーブメントデザインであった。

およそ44系までのムーブメントでは見えないところにもこだわりがあるというのが価値であったのだろう。

むしろシースルーバックでないことが、惜しいくらいである。

ちなみに私は、44系ムーブメントはシースルーバックにカスタムして使用している。

ハンマーもない44系ムーブメントをカバーするなんてもったいなさすぎる。

対して、45系では一転して直線的なデザインのムーブメントとなった。

かろうじてダブルブリッジの機構は残されているが、それ以外はしっかりとした直線が引かれている。

これは直線のほうが寸法を測定しやすく品質を管理しやすいためと推測する。

同時にムーブメントはユーザーの目には触れない場所であるというコンセプトが浸透しつつあったのだろう。

装飾的な高級感という意味では、44系までで45系以降は機能を感じさせる渋い仕上がりとなっている。

そうはいっても4Sや6R以上の現代ムーブメントと比べてもまだ美しい仕上げとなっていると思う。

しかし、45系ムーブメントならカバーされていてもいいかなと思える仕上がりである。

これは現代のムーブメントでより顕著である。

最も廉価品である7Sや4Rシリーズではシースルーバックにもかかわらず観賞用の仕上がりではない。

これは量産品のためムーブメントを確認することで本物であるということを証明しているのだ。

激しい扱いが予想されるダイバーズやスポーツ系のムーブメントに最適なムーブメントであるといえる。

故障時は修理ではなくムーブメント交換をしてしまえばいいのだ。

複雑に彫られたプレートも高コスト

フレームとなるプレートもかなりコストがかかっている。

ゴールドフェザーなどで培った薄型化の技術も惜しみなく取り込まれている。

このころは、薄型の機械式時計が流行ったのだろう。

本来なら強度が必要になる1番車裏も肉抜きがされて、カレンダーリングの裏側が確認できる。

グリスの流れだしなどを考慮しても、ここは0.5mmでもいいから肉が欲しかったところである。

しかし結果として、ハンマーもない45系ムーブメントはものすごく薄い機械式時計となった。

これは現在のグランドセイコーと比べても薄いものであることは自明である。

ただし、現代は大きい時計が流行っているので、薄型であることが必ずしも価値にはならないことは覚えておきたい。

逆にこのころのコンセプトもまた他とは違う時計という意味でとても魅力的である。

その効果が十分であったかは定かではないが、この中央の小さな歯車が安全装置であろう。

ゼンマイが切れた際の1番車の逆回転を防いでいると思われる。

ただし実際は、1番車を突き破られた個体が多く存在する。

そうなると、基本的に部品交換以外手はないが、代替部品の調達が難しいのが45系ムーブメントである。

ゼンマイ切れの45キングセイコーを時計店に修理に出したことがあった。

その際は、真っ先に香箱の破壊がないかチェックされたほどだ。

幾何にゼンマイ周りの破損が多いムーブメントかが見て取れる。

文字盤裏にもあるれるこだわりが感じ取れるのが45系のムーブメントだ。

見ての通りカレンダーは微妙に偏芯している。

カレンダーは付加部品なので、スペース的に優先順にが低いためこのような配置にせざるを得ない。

機械式時計に限って言えば、カレンダー機能は不要であるというのが私の考えである。

時計に限らずカレンダーもスマホやパソコンなどそこらじゅうで確認できるからだ。

わざわざ時計でも表示しても見ないし、あわせる作業も面倒だ。

こんなにも複雑に見えた45系ムーブメントであるが、ばらしてみると意外なほどシンプルだ。

これは、45系ムーブメントが手巻きであることが大きい。

自動巻きでないことで、ハンマーをはじめ巻き上げ機構と切替機構の歯車がないからだ。

こんなシンプルな機械式時計が魅力的でたまらない。

今回は、セイコーの中でも特にスペシャルな45ムーブメントを紹介した。

こんな最初で最後のとんがったムーブメントが私は大好きである。

そのため、長文になってしまったと思う。

他の時計とローテーションしながら、末永く使っていきたいと思う。

まとめ

  • スペシャルで圧倒的な気合の入ったムーブメント
  • 数少ない10振動機
  • 異様なハイトルクゼンマイ
  • 謎のテンプ蹴りだし機構
  • 追いやられた歯車たち

GRAND SEIKO メカニカル ハイビート 36000 GMT トリプルタイムゾーン SBGJ237, ブルー, 機械的
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