当時のGS/KSに次ぐ準高級機その品質に驚く
こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう!
今回はセイコーのクラウンスペシャルをメンテナンスする。
セイコーのクラウンといえば、代表的な標準機である。
日本の手巻き機械式時計のベンチマークといって過言ではない。
世界レベルの品質を達成したマーベルをベースにムーブメントを大型化、大幅な品質向上を果たした機種である。
本機はそのクラウンのスペシャルバージョンである。
その名に恥じぬ当時の準高級機である。本機の上にはグランドセイコーとキングセイコーがあるのみだ。
そして、個人的な思いではあるが、このムーブメントcal.341はセイコーの最高傑作ムーブメントであると思っている。
精度、耐久性、品質のバランスがものすごくいい。
この写真の風体からは想像つかないかもしれないが、高級感は初代グランドセイコーと比べても遜色ないものだ。
ちなみに文字盤はSD仕様があることから、2代目グランドセイコーよりも高級仕様である。
それでいてムーブメントの信頼性は初代グランドセイコーを上回るものであると思っている。
ある程度のタマ数もあるため、オールドセイコーの中では2代目ロードマーベルと並んで最もおすすめなモデルである。
現在においてもこれのバランスを上回るムーブメントはないと思っている。
それではさっそく現品を見ていこう。
いつもながらに雑に扱うにもほどがあるのじゃないかと思うくらいのボロボロ度合いである。
普通に使ってれば、時計がこんなふうにはならない。風防とベゼルがないってどんなだよ!
まあ、落ち着いて分解していこう
まずは針を外しておく、リカバリーできる文字盤がないのが悲しいが、まあ、できる範囲でやっていこう。
これもあるあるなのだが、外観がボロボロだと当然使うこともないので、ムーブメントはきれいだったりする。
本機もムーブメントの状態は、幸運にも極上といえる。ほぼ使用してないのではないだろうか。
オシドリを押してリューズを取り、ムーブメントをケースから取り出す。
部品脱落を考慮して、リューズをムーブメントに再装着し、文字盤を外す。
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広告ムーブメントの文字盤側を分解する
文字盤側から見ていくと、やはり、外観からは想像ができないくらいムーブメントがきれいである。
部品の欠品もないようだ。
短針を回す歯車を外す、これは特に固定はされていない。
ツツカナと呼ばれる長針を回している歯車を引き抜く。
これは2番車の軸に圧入されているので慎重に引き抜く。私はいつも剣抜きを使って抜いている。
ムーブメント本体である裏側をばらす
では、裏面をばらしていく。本ムーブメントの特徴は大型のテンプである。
大型のテンプで、慣性重量を大きくして安定化を狙ったモデルであることがわかる。
大型のテンプは確かに空気抵抗や摩擦抵抗などの外乱に強い特徴があるため、平置き状態の安定性が向上する。
しかし、一方で慣性重量が増しているため、装着時の姿勢変化の影響が大きくなる。
ここはトレードオフである。このバランスをとるのがムーブメント設計の醍醐味である。
まあ、通常使う分には深く考える必要はない。日差で数秒の世界の話である。
これらの微々たる誤差を涙ぐましい努力で追い込んでいったのがクォーツショック前の機械式時計である。
角穴車を外す。
プレートを外すと、香箱(1番車)が現れる。
金色仕様である。この中に動力源であるゼンマイが収められている。
2つ目のプレートを取り外すと輪列が見える。実に美しい輪列である。
中心にある、秒針を回す4番車、右上の3番車、先ほどの香箱を取り除く。
同時に秒針規制のリンクも取り除いている。下に銅板までひかれている豪華仕様である。
機械式時計のメイン部品テンプASSYを外す
テンプを外す。この時可能な限りヒゲゼンマイという渦巻き状のバネに負荷がかからないようにする。
機械式時計の99%はこのヒゲゼンマイの品質で精度が決まる。
パソコンでいえばCPUに当たるような部品である。
2番車を留めているプレートを外すと異様な形のガンギ車が現れる。
これとアンクルが衝突する音があのカチカチ音を発生させている。
アンクルを留めるプレートを取り外すとアンクルが見えてくる。実に繊細な部品だ。
先端にあるピンク色の爪は人口ルビーであり、はめ込みの上、接着されている。
いったい誰がどのようにして嵌めているのか想像もできない。
以上ですべての部品が取り外された。
なんと時針である中央2番車の軸に人口ルビーが入っている。
通常、回転数の多い場所に摩擦低減のためルビーが使われる。
私の感覚では時針程度の回転数の場所にルビーは過剰スペックである。
ものによっては香箱の軸にまでルビーが入っているものがある。
ちなみに文字盤に記載されている23jewelはルビーの数を示している。
意外なほど少数の部品で構成されている機械式時計。
本機の最高に素晴らしい点は機械式時計に必要な機能のみで無駄な機能が一切ないことにある。
強いて言えば秒針規制機能は不要であると思うがそれだけである。
これらばらした部品を超音波洗浄機で洗浄していく。
洗浄した部品を注油し順次組立していく
各回転部にはうっすらと時計用オイルを注油する。
これは少なすぎれば摩擦が大きく、摩耗を速めたり、動きを阻害したりする。
逆に多すぎても摩擦が大きくなり動きを阻害する。
多すぎず少なすぎずの絶妙な量で注油する。
2番車を取り付ける。
アンクルを取り付ける。この時軸が嵌まっていることを慎重に確認する。
万が一嵌まっていない状態でネジを締め付けると軸を破損する可能性がある。
2番車を抑えるプレートを取り付ける。
香箱を取り付ける。
テンプを取り付ける。こちらはとても繊細な部品で破損しやすいため注意して取り扱う。
このころのヒゲゼンマイはある程度丈夫なモノとなってはいる。
対して現行機である7S26や4R36などの70系は非常に繊細になっている。
3番車と4番車を取り付ける。
ムーブメントの組み立てが完成
プレートを取り付けて固定する。
各歯車の軸が嵌まったことを確認してからネジを締め付けること。
ツツカナを圧入する。
短針を回す歯車を嵌める。特に固定機構はない。
ものすごくなくしそうな銅ワッシャーを入れる。
文字盤をサイドのネジで固定する。
ムーブメントをケースに固定する。
針を圧入する。秒針は適当なものを見繕って嵌める。
べセルと新品の風防をはめ込む。文字盤は汚いが、だいぶ見れるようにはなった。
写し忘れたが、裏蓋を取り付ける。
ベルトを付けたらできあがり。
レストア完成、ボロボロだが得も言われぬ迫力を感じる
まあ文字盤はボロボロだが、他をきれいにすれば、なんとかギリセーフ?
時計の機能としては申し分ない精度を出しているのでレストアとしては成功である。
SD文字盤でも見つけたら取り替えてみようかと思うが、やたらと高額なので、このままでよいかと思っている。
今回のレストアを通して、クラウンスペシャルの品質の高さを確認できた。
この圧倒的な耐久性は、昭和のモノづくりでしか実現しえない。
現在では完全にオーバースペックであり、コスト高で生産できない。
言い方を変えれば、ここまでしなくても高精度な時計が作れる技術が確立したといっていい。
最も好きな時計の一つであったのでとても面白いメンテナンスであった。
まあ、今回はここまで、 今後もメンテナンス情報を伝えていくのでよろしく、それではまた。