
よし、前回と同じでいこう!
機械設計の現場では、よくこう言われる。
「前回と同じでいこう」
これは効率化のために非常によく行われる。
実際、
- 過去図面
- 既存ユニット
- 流用部品
を活用すること自体は悪ではない。
むしろ開発スピードを上げるためにとても重要なスキルである。
しかし新人設計者ほど、
“なぜ前回成立していたのか”
を考えないまま流用してしまう。
ここに大きな落とし穴がある。
実際の不具合や事故でも、
「前回と同じだったから」
が原因になっているケースは非常に多い。
本記事では、
なぜ設計流用が危険になるのか、
そして強い設計者は何を確認しているのかを解説する。
設計流用そのものは悪ではない
まず重要なことを述べる。
流用自体は非常に重要である。
なぜなら、
- 実績がある
- 開発が速い
- コストを抑えられる
- 品質安定しやすい
メリットが数多くあるからである。
実際、多くの製品開発は流用の上に成り立っている。
問題なのは、
“思考停止流用”
なのである。
なぜ新人ほど危険なのか
1. 理由を理解していない
例えば、
- なぜこの板厚なのか
- なぜこの材料なのか
- なぜこの公差なのか
を理解しないままコピーしてしまう。
その結果、
条件が変わった瞬間に破綻する。
その設計には必ず、設計意図や理由がある。
流用前にはそれを理解する必要がある。
2. 成立条件を見ていない
前回、その設計が成立(バランス)していたのには理由がある。
例えば、
- 荷重が小さかった
- 温度が低かった
- 使用頻度が少なかった
など。
もっと言えば、
“たまたま成立していた”
可能性すらもある。
設計の構成要素はとても多く、制約条件も多いことが普通だ
そんな中で、絶妙なバランスでできている。
それは、バランスゲームのようで、一本抜いたら崩れるジェンガのようだ
実際によくある流用事故
ケース1:材料だけ変更
コストダウンのために材料変更。
これはコストダウン要求などでよく検討するものだ。
しかし、
- 強度
- 熱膨張
- 耐食性
が変わり、不具合発生。
これは非常によくある。
というよりも、既存設計から材料だけが変えられるケースはかなり稀だろう。
以前の設計者が、その材料を検討しなかった場合なんて、そうそうない。
ケース2:サイズ変更
新人ほどやりがちである。
「形は同じだから」
という理由で大型化する。
しかし実際には、
- 自重増加
- 剛性低下
- 振動特性変化
が起きる。
つまり、
単純拡大は危険なのである。
相似形であれば、一辺を2倍にすると、面積は4倍、体積は8倍になる
そこらじゅうのバランスが変わっていくのがわかるだろう。
これを考えると、例えば、箱型の大きな車の設計が難しいことに気づけるだろう。
ケース3:使用環境変更
前回は屋内。
今回は屋外。
しかし同じ設計を流用。
その結果、
- 錆
- 応力腐食割れ
- シール劣化
などが起きる。
環境が変われば、設計条件も変わる。
設計条件が変わればバランスも変わる。
「過去に実績あり」は安心ではない
これは非常に重要である。
新人設計者ほど、
「前回問題なかった」
を安心材料にする。
しかし本当に重要なのは、
“なぜ問題なかったのか”
である。
実績には落とし穴がある
例えば、
- 使用期間が短かった
- たまたま壊れなかった
- 使用条件が軽かった
可能性もある。
つまり、
「実績あり」
だけでは不十分なのである。
だいたいの場合、「実績あり」とは
「今まで一定の条件で問題が起きていない」だけなのである。
強い設計者は何を確認するのか
1. 何が変わるか
まず見るのは、
「前回と今回で何が違うか」
である。
例えば、
- 荷重
- 温度
- 使用頻度
- 振動
- 使用者
など。
ここを整理するだけで危険箇所が見えてくる。
まあ、新しいものを作ることが大半のなので、同じところを探すほうが難しいだろう。
全く同じ条件ものを流用し、再設計しても問題が生じるような状態が普通だ。
2. 成立理由
強い設計者は考えている。
- なぜこの寸法なのか
- なぜこの構造なのか
- なぜ壊れなかったのか
つまり、
“背景”
を見ている。
手っ取り早いのは過去の図面を描いた設計者に聞くことだが、
不可能な場合は図面から読み取るしかない。
3. 限界条件
優秀な設計者ほど、
「どこまでなら成立するか」
を考えている。
つまり、
- 安全余裕
- 限界荷重
- 使用限界
を把握している。
図面コピーは設計ではない
ここは新人設計者に特に伝えたい。
過去図面を使うことは悪ではない。
しかし、
コピーするだけでは設計力は伸びない。
本当に重要なのは、
「なぜこの形なのか」
を理解することである。
ベテラン設計者が速い理由
新人は勘違いしやすい。
ベテランが流用しているから、
「深く考えていない」
ように見える。
しかし実際には逆である。
ベテランほど、
- 危険ポイント
- 過去トラブル
- 壊れ方
を知っている。
だから、
「どこを変えると危険か」
を理解している。
これは経験によるところも大きいので、地道に積み上げていこう
設計変更で最も怖いこと
実は設計変更で怖いのは、
“小変更”
である。
なぜなら油断しやすいし、過小評価しやすいから。
例えば、
- 穴位置変更
- 板厚変更
- 材料変更
一見小さい。
しかし実際には、
- 応力分布
- 加工性
- 振動
- 組立性
に大きく影響することがある。
一見すると「穴の位置を変えるだけ」かもしれないが、
場合によってはすべてのバランスを見直す必要が出てくる
例えば、公差設計が成り立たなくなるなどだ。
「なぜ?」を持つことが重要
強い設計者ほど、
「なぜ?」
を繰り返している。
- なぜこの寸法か
- なぜこの公差か
- なぜこの材料か
これを考えるだけで、流用事故は大きく減る。
特に注意すべき流用
1. 他社流用
非常に危険である。
なぜなら、
- 設計思想
- 使用条件
- 安全基準
が分からないから。
基本的に他社のものの発想は流用できても、設計を流用することは不可能に近い。
2. 古い図面
昔は成立していても、
- 現在の安全規格
- 現在の材料
- 現在の使用環境
に合わない場合がある。
昭和の時代ごろになると、設計ではなく現場の職人技でカバーされていることもあるだろう。
それはそれで、当時の気合を感じるが、今ではそれは通用しない。
いろいろな環境が今と昔では異なっていることに気を付けよう
3. CAEなし流用
昔は経験だけで成立していたケースもある。
しかし、条件変更すると危険になる。
それこそ、絶妙なバランスで、トライ&エラーを気の遠くなるほどくらい返したものがそれに当たる。
CAEを使えば実験回数は3回で済むようなものがあったとして、
もしもCAEなかったら10回とか、それ以上の試行がされている可能性もある。
理屈ではなく、気合で成り立っている場合だ。
嘘のようだが、私もこの経験がある。
いくら考えても、成立させるために、気の遠くなるような試行を繰り返すしかない構造である。
これはほんのちょっと変更を加えると途端に成り立たなくなるだろう。
新人設計者が今すぐやるべきこと
1. 流用理由を聞く
おすすめは、
「なぜこの設計なんですか?」
と聞くこと。
これだけで学びが増える。
2. 変更点を整理する
流用時は、
「前回と違う点」
を必ず洗い出す。
3. 壊れ方を想像する
- どこが弱いか
- どこに応力が集まるか
- どこが先に壊れるか
を考える。
4. 過去不具合を見る
最強の教材は失敗である。
不具合事例を見るだけで設計力は大きく伸びる。
まとめ
設計流用そのものは悪ではない。
むしろ開発効率に不可欠である。
しかし危険なのは、
「前回と同じだから大丈夫」
という思考停止である。
本当に重要なのは、
- なぜ成立していたのか
- 条件は同じか
- どこが危険か
を考えること。
設計とは、
「図面をコピーする仕事」
ではない。
「条件の違いを見抜き、最適化する仕事」
なのである。
新人時代ほど、
「前回と同じ」
で止まらず、
「なぜ?」
を考える習慣を持つべきである。
むしろ、流用設計部分を再体験するくらいの気持ちが必要だ。
それが、本当の設計力につながっていく。