なんで?CAEを信じすぎるとNGな理由

CAEは使えて当たり前?

近年の設計現場では、CAE解析は当たり前のスキルになっている。

むしろCAEを使うことを前提とした開発スケジュールになっているといってもいいだろう

これからの設計者はCAEを理解できて当たり前とすらいえる。

しかしながら、CAEを理解していない設計者のいかに多いことか、驚きすら覚えるのである。

根底には、数年前まで設計とCAEとは別物、別の分野として扱われてきたという経緯もある。

今ほどコンピューターが一般的でない時代は、パーソナルコンピューターなど考えられなかったし、AIほどではないにしろ、CAEには多くのメモリーと計算能力が必要になる。

簡単な計算であっても解析までに1週間かかることなど当たり前であった。

そして、扱いには膨大なノウハウが必要になるため、CAEは設計者ではなくCAE専門家の領域であったのだ。

しかしながら、昨今のコンピューターの普及と性能向上により、設計用PCでも簡単な解析であれば、数分で完了してしまう時代だ。

CAEを詳細に使えないまでも、CAEを理解し、簡易的に使いこなすスキルは強い差別化となるだろう。

実際にCAEは以下のような多くの検討をPC上で行える。

  • 応力解析
  • 熱解析
  • 流体解析
  • 振動解析

使ってみれば、非常に便利である。

しかし、たとえ使えたとしても新人設計者や理解の薄い人ほど、

「解析OK=安全」

と思い込みやすい。

これは危険である。

なぜなら、

CAEは“計算結果であって、現実そのもの”ではないから。

実際の設計不具合でも、

「解析では問題なかった」

というケースは珍しくない。

本記事では、

新人設計者が陥りやすい“CAE依存”の危険性と、

本当に強い設計者が解析をどう使っているのかを解説する。

CAEは魔法の計算機ではない

まず最初に重要なことを述べる。

CAEは非常に強力な道具である。

しかし、

その結果は答えや安全を保証するものではない。

CAEはあくまで、

  • 条件
  • 仮定
  • モデル

を元に計算しているだけである。

つまり、

入力が実際の条件を再現できていなければ、答えも実際とは異なる。

そして、当然であるが、実際の条件をコンピューター上で完全に再現することはとても困難である。

そのため、何を想定し、どんな答えを得るのかをあらかじめ予測する必要がある。

少なくとも、CAEの結果が定性的に間違いのないこと、理論的に逸脱していないことは確認する必要がある。

なぜ新人ほど解析を信じすぎるのか

1. 数字が出るから

CAEは結果を“必要以上に見える化”する。

例えば、

  • 最大応力
  • 変位
  • 温度分布

など。

しかも色付きで表示される。

すると、

「なんとなく正しそう」

に見えてしまう。

2. PCが計算している安心感

人間よりコンピュータの方が正確。

そう感じやすい。

しかし実際には、

コンピュータは“設定された条件”しか知らない。

現実を理解しているわけではない。

コンピューターには何ができて、何ができないのかを理解しておこう

CAEで最も危険なのは“条件”

ここが最重要である。

解析結果は、

条件設定でいくらでも変わる。

例えば境界条件

これは新人が最もミスしやすい。

例えば、

  • 完全固定
  • 荷重位置
  • 接触条件

など。

例えば、現実には微妙に動く場所を、

完全固定にすると結果は大きく変わる。

しかしながら、どこかを完全固定しなければ解析ができない。

通常CAEは空間に物体があると仮定されている。

どこも固定されていない状態で、物体に荷重を加えるとどうなるか。

位置と速度が無限大になるため、CAEは解析できずにエラーを出すのだ。

荷重条件も考慮が必要

現実では、

  • 衝撃
  • 偏荷重
  • 振動
  • 誤使用

が起きる。

しかし解析では、

“想定される条件”

しか入れていないことも多い。

つまり、

現実の方が遥かに厳しい場合もある。

そして、CAEは計算時間が大きな要素である。

いかに早く使える結果を出すかということだ。

そのためには、計算能力を上げるか、計算負荷を小さくすることになるが、

大抵の場合、計算負荷を小さくするしかないだろう。

そして、静荷重条件と比較して、衝撃荷重や振動は計算負荷が大きくなる。

結果として、静荷重条件に変換して、解析することが多くなるだろう。

メッシュ依存の罠

CAE初心者がよくハマる。

メッシュとは、

モデルを細かく分割すること。

しかし、

  • 粗すぎる
  • 部分だけ細かい
  • 要素形状が悪い

などで結果が変わる。

つまり、

「解析結果」

そのものが絶対ではない。

これも奥の深い話となるが、メッシュは多ければ多いほど、解像度が上がる。

つまりより細かく見ることができる。

しかし、当然メッシュ1つ1つが計算対象なので、計算負荷は上がっていく。

先も述べたように、コンピューターのメモリと計算能力、解析時間は貴重なリソースである。

高額なコンピューターを占有し、解析に1週間もかけていたのでは、どんなに結果が正確であっても、開発は終わっているかもしれない。

そのため、メッシュの切り方も考慮する必要があるし、それによる結果の違いも考慮する必要がある。

応力集中の見落とし

新人設計者ほど、

「最大応力値」

だけを見る。

しかし重要なのは、

  • どこに集中しているか
  • なぜ集中しているか

である。

例えば、

  • 角部
  • 穴周辺
  • 段差

には応力集中が起きやすい。

CAE解析結果の見方としては、絶対評価ではなく、比較評価とすることがコツといえる。

「最大応力が100MPaになった」ことはほとんど意味がない。

結果が異なっている可能性を考慮すれば100MPaで設計することはできないからだ。

それよりも「どこに応力集中しているか、他と比べてどの程度か」は、重要な情報であり、形状や荷重位置を間違えない限りは、おおよそ正しいことが多い。

この情報は、設計形状に影響を与えられるため、有益であるといえる。

解析が正しくても壊れる理由

ここが非常に重要である。

たとえ解析が正しくても、

現実では壊れることがある。

なぜか。

解析では考慮できない現象があるから。

CAEで見落とされやすいもの

1. 疲労

静解析OKでも、

繰返し荷重で壊れる。

これは非常によくある。

2. 溶接

溶接部は、

  • 残留応力
  • 欠陥
  • 熱影響

などがある。

しかし簡略化されることも多い。

3. 加工誤差

現実には、

  • 寸法誤差
  • 組立誤差
  • 傾き

がある。

しかし解析では理想形状。

4. 経年劣化

  • 摩耗
  • 腐食
  • 緩み

など。

時間変化は解析されていないことが多い。

CAE解析はあくまで限られた条件のシミュレーションに過ぎない。

CAE解析に反映されない現象は、荷重条件にあらかじめ盛り込んでおくなどの工夫が必要だ。

解析で壊れる設計者の特徴

1. 結果だけ見る

  • 応力OK
  • 変位OK

で終わる。

しかし、

「なぜその結果になったか」

を考えていない。

そもそも、解析前にどのような条件で、どのような結果が欲しいのかがわかっていないと解析できないという矛盾がある。

通常の電卓なら「4×5は何になるかな」と入れると「20」が表示されるだろう。つまり結果を知らなくても答えが得られるのである。

それは得られる結果が数字とわかっていて、それしか表示されないからである。

しかし、解析はちがう。

「この形状でこの荷重を入力したら、この辺りに応力集中するだろう」で解析を行う

結果1「やっぱり思った通りだ、別途実験で確認しよう」

結果2「あれ?なんか全然別の結果になった。何でかな、もう一度考えよう」

こんな感じである。

そう、事前にある程度の答えを予測できないと、価値ある情報に変換できないのである。

ひと昔前のCAEでは、応力分布をを観たい断面を事前に設定しないと、1週間の計算後に結果が見れない、なんてこともあったくらいだ。

まるで、鶏が先か卵が先かなのだが、解析とはそういう側面もあることを理解しよう。

2. 現場を知らない

現場では、

  • 無理な使い方
  • 誤組立
  • 衝撃

が普通に起きる。

しかし机上だけでは分からない。

現場に足を運んで、現実の理解が解析の結果に影響するだろう

同じ解析結果でも、見る人にとって価値が異なるし、

知らないと価値を引き出せない、それがCAEであるといえる。

3. 実験を軽視する

解析だけで安心する。

しかし実際には、

  • 実機評価
  • 試験
  • 現物確認

が極めて重要である。

解析の重要な点は、現実フィードバックである。

「解析条件が正しいかどうか」を判断する方法は

「解析結果と実験結果を比較する」ことだ

実験して初めて解析条件が正しかったかがわかるのだ。

そう、CAEは実験の代わりではない、実験回数を減らしてくれる補助ツールなのである

強い設計者は“解析を疑う”

優秀な設計者ほど、

解析結果をそのまま信じない。

むしろ、

「本当にこの条件で合っているか?」

を疑っている。

先に述べたとおり、経験の浅い人が、最初に出した解析結果が正しい可能性は著しく低い。

経験のある人でも、初めての条件であれば同様だ。

しかし、設計はまだないものを作ることがほどんどであることを考えると、最初に出てきた解析結果は手放しで使用できるものではないといえる。

絶対評価ではなく比較評価材料としてCAEの結果を使用するのだ。

強い設計者が見るポイント

1. 荷重経路

力がどう流れるか。

ここを理解している。

だから、

「この結果はおかしい」

に気づける。

2. 壊れ方

  • どこが先に壊れるか
  • どう変形するか

を想像している。

3. 現実との差

  • 組立誤差
  • 使用環境
  • 加工ばらつき

まで考えている。

CAEは“答え”ではなく“ヒント”

ここを理解することが重要である。

CAEは非常に便利。

しかし本来は、

設計を考えるための補助

である。

つまり、

「解析が正しいからOK」

ではなく、

「なぜこうなるのか」

を考えるために使う。

実験と現場が重要な理由

最終的に設計を証明するのは、

現物である。

  • 実機試験
  • 耐久試験
  • 現場確認

これらが極めて重要。

なぜなら、

現実は解析より複雑だから。

そして、必ず解析と実験や現実とのすり合わせが不可欠だから

新人設計者が今すぐやるべきこと

1. 力の流れを考える

まず、

「力がどこを通るか」

を考える癖をつける。

解析前に解析結果を想像しながら条件設定しよう

2. 条件を疑う

  • 固定条件
  • 荷重条件
  • 接触条件

は本当に現実的か?

を考える。

3. 現物を見る

図面だけではなく、

実物を見る。

これだけで理解が変わる。

4. 壊れた製品を見る

最強の教材は失敗である。

壊れ方には、

設計の答えが詰まっている。

まとめ

CAE解析は非常に強力な道具である。

しかし、

「解析OK=安全」

ではない。

解析結果は、

  • 条件
  • 仮定
  • モデル

に大きく依存する。

つまり、

“現実感覚”

がなければCAEを活用することは難しいといえる。

本当に強い設計者ほど、

  • 力の流れ
  • 壊れ方
  • 現場
  • 実機

を重視している。

設計とは、

「解析結果を見る仕事」

ではない。

「現実を成立(バランス)させる仕事」

なのである。

新人時代ほど、

CAEの数字だけではなく、

「本当に現実で起きるか?」

を考える習慣を持つべきである。

それが、本当の設計力につながっていく。