
変わるツール、変わらない原理原則
近年、設計の世界は急速に変化している。
- AI設計支援
- 自動最適化
- ジェネレーティブデザイン
- 高性能CAE
- 自動図面化
かつて人が時間をかけて行っていた作業が、次々と自動化され始めている。
その結果、多くの設計者が不安を感じている。
「AIに仕事を奪われるのではないか?」
確かに、単純作業は今後さらに自動化されていくだろう。
しかし一方で、AI時代でも消えない力がある。
それが、
原理原則を理解する力
である。
本記事では、
なぜ技術進歩の時代ほど“基礎”が重要になるのか、
そしてAI時代に本当に求められる設計力について解説する。
技術は変わる
まず重要なこと。
技術は必ず変化する。
例えば設計現場でも、
- 手描き図面
- 2DCAD
- 3DCAD
- CAE
- AI支援
と進化してきた。
つまり、
“道具”は変わり続ける。
常に技術の変化に対応し、常にスキルを磨き続ける必要があるのは言うまでもない。
原理原則は変わらない
一方で、
本質的な物理法則は変わらない。
例えば、
- 力は弱い場所へ集中する
- 応力集中は危険
- 振動は疲労を生む
- 熱は膨張を起こす
こうした原理は、
100年前も今も変わらない。
この原理原則を抑えておくことこそが、設計者として重要である。
しかも、変わらないのだから、リスクは低い上にリターンは大きい。
主に基本に近い物理法則ほど変化しないものである。
同時に、目新しさを装っている多くの物に気づくことができるだろう。
常に進化しているイメージの自動車でさえ、実際はほとんど進化していないのだ。
そういうと、その業界の人に怒られそうだが、意味合い的には根本的なことだ。
今でもほとんど自動車は、ゴムのタイヤで4輪走行しているし、バッテリーもそれほど小型化していないし、いまだにガソリン燃料が主流
自動運転やら、燃費向上は確かに進歩しているが、それは自動車の基本機能ではない。あくまでアクセサリー、付加機能なのである。
ちょっと昔でいえば、機械式腕時計なんかも100年以上進化しなかったといえる。
これらは、変わらない原理原則による物理現象が要因となっていることが多い。
新人設計者が陥りやすい罠
1. ツールを使える=設計できる
これは非常に多い。
例えば、
- CAD操作が速い
- CAEを回せる
- AIツールを使える
しかし、
それだけでは設計は成立しない。
なぜか
ツールは、
“答えを出す道具”
ではなく、
“計算や作業を補助する道具”
だから。
ツールを使うことで、作業を加速できると考えるとよいだろう。
作業と設計を混同してはいけない。
2. 結果だけを見る
例えばCAE。
応力が青く表示され問題ない。
だから安心。
しかし本当に重要なのは、
「なぜそうなるのか」
である。
ツールを使いながらも常に「なぜそうなるか」を問い続けよう
3. AIの提案を鵜呑みにする
今後、急速に増えるであろう事象である。
AIは短時間で候補や提案を大量に出せる。
しかし、
- 加工性
- 保守性
- 現場性
- 壊れ方
まで理解しているとは限らない。
しかもその答えは大抵の場合、自信満々である。
しかし、だんだんとその差は埋まってくる可能性は十分にある。
常にAIの進化には目を配っていきたい。
AIが得意なこと
AIは非常に強力である。
特に、
- 計算
- 最適化
- パターン探索
- データ分析
は圧倒的に速い。
これは人間では勝てない。
しかしAIが苦手なこと
ここが重要。
AIは、
“現実”
を本当の意味では理解していない。
例えば
- 現場のクセ
- 人の使い方
- 暗黙知
- 違和感
- 異常の気配
など。
これは経験と感覚が大きい。
AIがどこまで人間の感覚に迫れるのかは未知数であるが、一方でAIは人間の作り出したプログラムであることに変わりはない。
ツールは常に理解して使いこなしていこう。
むしろ、私のようなベテラン設計者にはすでに理解が追い付かない可能性すらある。
私が新人設計者の時は、横に3DCADを使えないベテランが何人か座っていた。
今はCAEが理解できないベテランが大勢いる。
反対にドラフター(手書きの製図機)を大学の授業以外で使ったことはない
なぜ原理原則が重要なのか
原理原則を理解している人は、
技術が変わっても対応できる。
なぜなら、
“本質”
を理解しているから。
原理原則とはそのまま本質であり、基本的な自然のルールである。
これを覆すことはかなり難しいと知っていいだろう。
「エントロピーは常に増大し続ける」なんかは特に理解されがたい原理原則である。
仕様変更があっても対応できる人
原理原則を理解した強い設計者ほど、
仕様変更により形状などが変わっても対応できる。
なぜか。
- 力の流れ
- 壊れ方
- 構造
を理解しているから。
設計変更にも適切に対応できるだろう
CAE結果を疑える人
原理原則を知っている人は、
「この結果はおかしい」
に気づける。
例えば、
- 荷重条件
- 境界条件
- 変形傾向
が現実とズレている。
これが直感的に分かるし、説明できる。
現実とCAEの結果は必ずと言っていいほど異なる。
どこが、どのくらい、なぜ異なるのかを考察し、より設計の完成度を高めていくことができる
AI設計を評価できる人
今後、ますます重要になるだろう、2026年以降の設計者の傾向になるだろう。
AIは設計案を大量に出す。
しかし、
「それが現実で成立するか」
を判断するのは人間。
つまり必要なのは
- 物理理解
- 構造理解
- 加工理解
- 現場理解
なのである。
CAEなどと同じく、どこが、どのように、なぜ現実と異なるのかを常に考えて使うようにしよう。
ベテラン設計者が強い理由
新人は勘違いしやすい。
「ベテランは経験だけでやっている」
ように見える。
しかし実際には、
大量の原理原則を身体で理解している。
例えば
- このRは危険
- この板厚は振動する
- この構造は割れる
など。
これは単なる暗記ではない。
経験で反応速度は速くなっているが、物理現象への理解である。
物理現象を理解していれば、事前に無理な要求仕様の交渉を行えるだろう。
原理原則を学ぶと応用が効く
ここが非常に重要。
例えば、
応力集中を理解していれば、
業界が変わっても応用できる。
- 自動車
- 航空機
- ロボット
- 家電
全てで共通する。
原理原則、物理法則は自然の法則である、当然業界などという、人間の作り出したジャンルに影響されることはない。
技術トレンドだけ追う危険
新人設計者ほど、
- 最新CAD
- AIツール
- 最新解析
ばかり追いやすい。
しかし、
土台が弱いと応用できない。
なぜか
道具が変わるたびに、
全部ゼロからになるから。
一方、原理原則を理解している人は
- ツールが変わっても対応可能
- 新技術を理解しやすい
- 応用範囲が広い
つまり、
長期的に強いし、トレンドに影響されない。
逆に古い技術トレンドを原理原則と勘違いする場合も危険である。
例えば、「機械式時計の精度には限界があるから、劇的な精度向上は望めない」
これは古い技術トレンドであって、原理原則ではない。
これは、クォーツ式時計という新しい技術トレンドが桁違いの精度を実現できた
さらに「自動車で時速400km以上出すことは難しいからそれ以上速くは移動できない」
これも飛行機を使えば容易に達成できる。
このように原理原則は思考や可能性を縛るものではなく、新しい技術トレンドの土台として使うことが正しい使い方である。
「考える力」が価値になる
AI時代を迎えるにあたってより重要な力である。
単純作業は減る。
その代わり、
- 本当に正しいか
- なぜそうなるか
- 何が危険か
を考える力が必要になる。
常に自問自答して問いかける癖をつけよう
設計とは“現実を成立(バランス)させる仕事”
ここが本質。
AIは計算できる。
しかし、
現場で起きる
- 振動
- 誤使用
- 加工誤差
- メンテ性
まで完全には理解できていない。
だからこそ重要なのは
原理原則を元に、
現実を想像する力
なのである。
原理原則を学ぶ方法
1. 壊れ方を見る
最強の教材。
破壊には物理法則が出る。
これを深く考察することで、原理原則にただりつくだろう
2. 現場へ行く
現実は教科書より複雑。
実際の現場での経験が強い力となるだろう
3. 基礎を軽視しない
- 材料力学
- 熱力学
- 流体
- 振動
は非常に重要。
だいたいの原理原則は教科書に書いてあるからである。
結局最後は教科書を見直すことになるだろう。
4. 「なぜ?」を繰り返す
これが最強。
常に考え続けよう
AI時代に消える設計者
危険なのは、
“操作だけ”の設計者。
- CADだけ
- CAEだけ
- AI入力だけ
では置き換えられやすい。
まあ、たとえAI時代が来なかったとしても、この手の設計者は淘汰されていただろう
AI時代でも残る設計者
一方で、
- 原理原則を理解している
- 壊れ方を知っている
- 現場を知っている
- 判断できる
人は強い。
意外なほど原理原則を重要視している人は少ない、目先の結果を求めると、原理原則を軽視しやすい傾向になるのだろう。
しかし、原理原則は覆らないという特徴があるので、常に原理原則からスタートしよう。
まとめ
技術は進歩する。
AIもさらに進化する。
しかし、
原理原則は変わらない。
本当に重要なのは、
- 力の流れ
- 壊れ方
- 振動
- 熱
- 現場
を理解すること。
AI時代とは、
「人が不要になる時代」
ではない。
「考えない人が厳しくなる時代」
なのである。
だからこそ設計者には、
ツール操作ではなく、
“本質を理解する力”
が求められている。