そう、「作れる」と「量産できる」の違い!

大抵うまくいかない量産

多くの新人設計者が最初に驚くこと。

それが、

「試作品は動いたのに、量産で問題が出る」

という現実である。

試作では完璧だった。

しかし量産が始まると、

  • 組めない
  • 精度が出ない
  • 不良が増える
  • 壊れる
  • コストが合わない

など、次々と問題が起きる。

ここで新人ほど思う。

「図面通りなのになぜ?」

と。

まったくもって、その気持ちはよくわかる。

たったこれだけのことがなんでできないの?と思うこともあるだろう。

しかし実際には、

“作れる”と“量産できる”は全く別物

なのである。

本記事では、

機械設計における“量産”の本当の難しさについて解説する。

そもそも量産とは何か

まず重要なこと。

量産とは、

単にモノを大量に作ること、コピー&ペーストではない。

本質は、

「誰が作っても、何回作っても、同じ品質で成立すること」

である。

ここが極めて重要。

そして、とても難しい

試作品は“特別扱い”される

試作機は、

多くの場合、

非常に丁寧に作られる。

例えば、

  • 熟練者が加工
  • 手修正
  • 現物合わせ
  • 時間をかけた組立

など。

つまり、

“気合い”で成立している場合がある。

しかし量産では違う

量産では、

  • 短時間
  • 多人数
  • 大量生産
  • コスト制約

の中で成立させる必要がある。

つまり、

“普通に作って成立する”

必要がある。

実際に、私にも多くの経験がある。

試作で作ったものの出来がとても良くて、思わず1発KOで量産を指示した。

すると、量産されたモノはまったく違うものができてきたのだ。

驚きのあまり、慌てて詳細を確認してみると、

材料、製作者、対応工場まで違うというではないか。

むしろ試作と同じ部分がどこなのか探すほうが難しかった。

主な原因としては、単純に私の油断、確認不足なのだが、試作の出来がよすぎる時ほど特に警戒しよう。

新人設計者が勘違いしやすいこと

1. 一回作れればOKと思う

これは危険。

試作品は、

奇跡的に成立していることがある。

しかし量産では、

数百、数千、数万台を安定して作る必要がある。

むしろ1回作るだけでは、量産について何もわからないだろう。

何なら、1回量産できればOKも甘いくらいである。

2. 図面通りなら問題ないと思う

実際の現場では、

  • 加工ばらつき
  • 組立誤差
  • 部品個体差

が存在する。

つまり、

理想通りにはならない。

3. 現場が何とかしてくれると思う

これも危険。

現場対応に頼る設計は、

量産で崩壊する。

むしろ優秀すぎる現場のある個人が量産を支えているという場合もある。

理想は工場を変更しても問題なく量産が可能になる資料ということになる。

しかし、現実には現場への依存ゼロで量産することは不可能である。

必す現場を確認しよう。

なぜ量産は難しいのか

理由はシンプル。

現実には、

“ばらつき”

があるから。

もっと言えば、量産品はすべて仕様内に収まるが、すべて違うものという認識が正しい。

何なら、どのくらいの数の量産品に対し、仕様からの逸脱を許すかを決める必要もある。

加工には誤差がある

例えば、

  • 穴位置
  • 板厚
  • 真円度
  • 平面度

など。

全て微妙にズレる。

組立にも誤差がある

さらに、

  • 締付
  • 姿勢
  • 手順

でも差が出る。

例えば、ネジを締めるだけでも穴とネジの隙間の範囲で組立はばらつく

材料も完全には同じではない

ロット差がある。

つまり、

設計者が思っているほど、

現実は綺麗ではない。

金属なんかは割と安定しているものが多い印象だが、

樹脂材料あたりで怪しくなってきて、

ゴムなんかになると、毎回違うといっていいだろう。

量産で起きやすい問題

1. 組立できない

試作では入った。

しかし量産では入らない。

これは非常によくある。

なぜかというと

公差積み上げが原因。

一つ一つは正常でも、

積み重なると成立しなくなる。

これは、公差設計に組み込まれている内容である。

しかし、すべての部品が公差ギリギリ最悪方向にできてくると大抵は成り立たないだろう

2. 精度が安定しない

例えば、

  • 軸ズレ
  • ガタ
  • 振動

など。

量産では個体差が出やすい。

これらも公差設計の一部である。

統計的に処理して、不良率を管理する必要がある。

3. 不良率が増える

試作では1台。

量産では数千台。

つまり、

小さな問題が大量発生する。

例えば不良率1%なら、100台作れば1台がNGだ。

製品によっても異なるが、大抵は1000台作って、NG3台以下を目安に設計すべきだろう。

4. 作業時間が長い

これも重要。

量産では、

1秒が大きなコストになる。

だから量産設計では

  • 組みやすさ
  • 迷わなさ
  • 作業性

が非常に重要。

良いものは組立や分解が容易で、安定して作業できるものである。

強い設計者ほど“現場”を知っている

優秀な設計者ほど、

現場を見ている。

なぜなら、

量産問題は現場で起きるから。

例えば

  • 工具が入らない
  • 手が届かない
  • 姿勢が苦しい
  • 向きを間違える

など。

CADでは気づきにくい。

現場を見て、あらかじめ対応できることは対応する

そうでないところは、初回量産前に現場確認して対応しておく

大きすぎて、現場に置き場所がないなんてことにならないように。

「作れる」より「安定して作れる」

ここが量産設計の本質。

例えば、

100人が同時に作っても成立する。

これが重要。

つまり量産とは

“再現性”

との戦いなのである。

統計的な処理が強い味方となってくれるだろう。

例えば10000台作ってNGがゼロなんてことは稀だろう。

NGのものが一定確立で出る前提で対応しておく必要があるだろう。

例えば、統計的にどのくらいNGになるのか、NGになった時の対応方法などだ。

なぜベテラン設計者は量産を怖がるのか

新人ほど、

「設計完了=終わり」

と思いやすい。

しかしベテランほど知っている。

本当に怖いのは、

量産開始後だということを。

なぜかというと

問題は大量発生するから。

1%の不良でも、

1万台なら100台。

つまり、

小さな問題が巨大化する。

1%の不良ならまだいいほうだ。

1%の不良に対応すればいいのだから

1万台なら100台に対応するだけだ。

最悪なのは、間違った指示で1万台の不良を作ってしまった場合である。

当然だが、1万台作り直す必要がある。

これがとても恐ろしいのである。

それでも、出荷された後よりはだいぶマシである。

量産設計で重要なこと

1. 公差を理解する

理想寸法だけで考えない。

ばらつきを考える。

あらかじめ公差設計しておけば問題ない

2. 組立性を考える

  • 入れやすいか
  • 間違えにくいか
  • 作業しやすいか

を考える。

3. 加工性を理解する

現場で無理な加工は危険。

現場ではどんな加工が可能で、どんな加工がイレギュラーなのかを確認しておこう

イレギュラーは不良のを導く可能性がある。

4. ポカヨケを入れる

人はミスをする。

だから、

間違えにくい構造が重要。

または、間違えると成立しない構造

さらにはたとえ間違えて気づける仕組みづくりである。

5. 現場を見る

最重要。

現場を見ると、

量産の難しさが分かる。

思っている以上に設計の意図は現場には伝わらない。

図面の役割の限界も量産では見えてくるだろう。

「良い設計」は量産現場で分かる

実は、

良い設計ほど目立たない。

なぜなら、

問題なく流れるから。

淡々と流れているものはよく設計されたモノか、運がいいものといえる。

一方、悪い設計は

  • 手直し
  • 調整
  • 無理組み
  • 現場対応

が増える。

つまり、

現場に負担を押し付ける。

最悪の行き着く先は、ユーザー使用時の事故などだろう。

設計とは“現実を成立させる仕事”

ここが本質。

CAD上で成立するだけでは意味がない。

実際には、

  • 作れるか
  • 組めるか
  • 維持できるか
  • 安定するか

まで必要。

AI時代でも量産理解は重要

今後、

AI設計は進化する。

しかし、

現場ばらつきや作業性は、

簡単には分からない。

つまり、

量産理解のある設計者は強い。

設計の仕事はAI時代でも陳腐化がかなり遅れる部類のスキルになるだろう。

まとめ

「作れる」と「量産できる」は全く違う。

試作品は、

気合いで成立することがある。

しかし量産では、

  • 加工誤差
  • 組立誤差
  • 個体差
  • 作業性

など、

現実との戦いになる。

本当に強い設計とは、

“普通に作っても成立する設計”

である。

設計とは、

単なる図面作業ではない。

「誰が作っても、安定して成立する現実」

を作る仕事なのである。