いまや時計はインフレ状態
こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう。
今回は時計業界の閉鎖的な雰囲気について書いていこうと思う。
アンティークの時計に興味を持った時、ある違和感を覚えた。
不自然なくらいに情報や部品の流通が限られているのだ。
こんなにも身の回りには時計であふれているのにも関わらずだ。
気がつくと時計は身の回りにどこにでもあったし、そのため、時計がこの世に溢れていることを不思議には思わなかった。
特に腕時計も気の向いた時につける程度、それもデザインなどあまり気にしない。なんとなく身につけていた。
その時気に入っていたのはスカーゲン。その北欧デザインと薄さに魅力を感じていたように思う。
その程度の認識であったのも、この世に当たり前のように時計がどこにでもあるからである。
機械式時計の価値の不思議
機械設計の仕事に関わる私は、ある日ふと歯車とゼンマイで動く機械式時計に興味を持った。
正確にはかっこいいと思ったデザインの時計がたまたま機械式であったのだ。
ブランドはまたもやスカーゲン価格は35,000円、機械式時計としてセイコー5を除けば、かなり安い部類だ。
しかしながら、その時の私は「なんて高級な時計なんだ。なんでわざわざゼンマイで動かすんだ。それが粋なのかな」と思った。
時計を所有して外側から得られる情報は、現在時刻、ケースデザイン、針の動きとリューズ操作感覚のみである。
それはロレックスを買おうと1,000円ほどで激安時計を買おうと変わらない。
当然、デザインや質感、ブランドなどは圧倒的に異なるが、何十万円、何百万円という価格差を納得させる理由としては十分ではなかった。
コピー品ですらも一定の市場があることを知った。
その後、構造を理解するために、機械式時計の不動ジャンク品(セイコーチャンピオン)を手に入れ、分解、研究、修理しようとした。
その時に、いくつかインターネットで情報を検索したのだが、あることに気がついた。
時計の世界は、車や他の趣味の世界に比べて極端に閉鎖的であったのだ。
機械式カメラの時も似たような感じであったが、それ以上に閉鎖的である。
一般には部品も流通していなければ、分解する方法を記載している記事も少なかった。
それどころか、時計師でもない人が蓋を開けることすら許さない雰囲気が漂っていた。
宗教じみた思いを抱いている人もいるのではと思うくらいだ。
さらにマニファクチュールという他の工業製品であありえない世界観も存在していた。これは、工業製品を扱う私の感覚からすると明らかに異常であった。
もっと多くの人に、単なるブランドやステイタスシンボルだけではない機械式時計の魅力、モノとしての価値を伝えたい。
今後もそんな気持ちで記事を書いていく。この時の思いが本ブログを立ち上げた主な理由である。
以下に機械式時計の世界への私の疑問点を挙げる
- なぜ機械式時計は高額なのか
- なぜマニファクチュールが賞賛されるのか
- なぜ時計業界は閉鎖的なのか
- 高級時計の偽物に存在価値があるか
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広告機械式時計の世界への扉を開ける
とりあえず時計の中身を開けてみるかという思いで、裏蓋を開けてみた。
その中には今まで見たこともないほど美しく、繊細な機械があった。
そもそも、まともに時計を開けたことがない上に、見たことがあるのは、シースルーバックからのみ。
それもオーバーホールを想定されていないようなムーブメントであったのだから仕方ない。
まずは、ネジ頭がマイナスであることに驚く。
通常ならプラス、触らせたくないなら特殊ネジを使用するところだ。
しかし、その後すぐにその理由に気付く、溝が細く工具が入らないのだ。
精密ドライバーも入らなことから、工具のサイズの問題ではないとわかった。
マイナスドライバーをヤスリなどで研ぎながらネジに合わせるのだ。
なるほどネジ頭がマイナスなわけだ。油断するとたちまち工具が欠けた。
そうこうしながらも明らかにムーブメントを止めているネジを外し、針も問題なく外す。
続いて文字盤を留めている部分をマイナスドライバーでこじった。
圧入されていると思ったのだが、なんと地盤のサイドから見たことのないサイズのネジで留められていた。当然文字盤の足はもぎ取れていた。
気を取り直してムーブメントの分解にかかる。
各プレートを難なく外し、歯車を取っていく、すると見たことない歯車と謎の部品に行き当たる。
ガンギ車とアンクルだ。2番車が外れない、文字盤側からツツカナが圧入されているからだ。ぶらぶらさせながらテンプを外して分解は完了した。
機械式時計の世界に魅せられる
ここまででわかったことは、思った通り非常に単純な構造であることだ。
歯車とゼンマイしか入っていない。
最も意外であったのはその部品の工作精度である。
図面を書くことはそう難しくない部品ばかりだが、製作することが難しい部品ばかりで、もはやどうやって作っているかわからないくらいだ。
しかも、一つ作るのも難しそうな部品が一定品質で量産されている工業製品の部品だ。
一般的な会社でこんな部品の図面を書こうものなら、製作担当が怒鳴り込んでくるだろう。
一息ついて組み立てにはいる。
部品の洗浄を行って、回転部分、摩擦部分に注油し、逆の手順で組み立てるだけ、、、のはずだったのだ。
爪の先ほどでは足りない、すね毛の先ほどの部品が飛んでいったり、軸がはまらなかったり。
ピンセットが磁化していたりと問題山積であった。
分解の2〜3倍ほどの時間をかけてようやく組み上げる。目も頭も指も肩も疲労がたまってフラフラだ。
組みあがったら、静かにリューズを巻き上げると、カチカチと、、、ギュウィィッィィィ!?チョロQのような音とともに一瞬でゼンマイが解けた。
およそアンクル周りの組み立て不良であったであろう。日を改め、再度、分解組み立てをすることとなる。
運が良かったのか悪かったのか、初めて組み上げたムーブメントはカチカチと美しい音を奏でながら、テンプをクルクルと回す。
その姿に感動を覚えたことは今でも覚えている。その後もムーブメントは問題なく稼働を続け、精度も実用精度を出していた。
分解、組み立ては確かに難しいが、適切な知識と訓練を重ねることで対応することができる。
機械式時計への疑問の答え
初めての機械式時計の分解、組み立てで、私は疑問の答えの大半を知ることができた。部品の製作難易度が他の製品とは文字通り桁違いであることが大きな要因である。
- なぜ機械式時計は高額なのか
- 桁違いの工作精度で製作されているから。ものによっては、貴金属やレアメタルなど高級な材料を使用したり、彫金、表面仕上げ、装飾などを施したりしているから(外から見えないムーブメントにもかかわらず)。
- なぜマニファクチュールが賞賛されるのか
- すべての部品の製作技術を1社で保有しているから
- なぜ時計業界は閉鎖的なのか
- マニファクチュールが賞賛されるから。良くも悪くも独占状態。需要が一定とすると供給を1社で調整可能であるので価格は自由自在。情報も同様に1社管理であるので調整可能。
- 高級時計の偽物に存在価値があるか
- ない。作りたいなら作らせておけば良い。身につけたいなら身につけさせておけばいい。外装から見分けは難しいが、ムーブメントを見れば違いは一目瞭然。高級時計と見間違えるようなものが作れるなら新しいブランドを起こした方が良い結果が得られる。よくできた偽物と出来の悪い本物に差分はない。