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廉価品なんて言わせないSEIKO5スポーツ7019の分解

SEIKO5は5つの機能を搭載した高機能時計の代名詞

  • ブランド名:セイコー
  • モデル名:セイコー5スポーツ
  • ムーブメント型式:Cal.7019
  • 振動数:21600回/h(6振動、3.0Hz)
  • 使用石数:21石
  • 発売年:1969年
  • ケース:ステンレスケース
  • ラグ幅:19mm

こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう!

今回はセイコー5スポーツをメンテナンスしていく。

何かの拍子に手に入れた時計で、実にボロボロである。

風防などは踏みつけるくらいしないとこんなことにはならないのではないかと思うくらいだ。

当然ながら不動品であるので、分解清掃して中身を観察していこう。

セイコー5といえば、今や廉価版や入門版セイコーのイメージしかないが、発売当時はそんなことはない。

5つの機能を搭載した多機能の象徴であった。

  • 耐衝撃
  • 切れないゼンマイ
  • 自動巻き
  • 日付表示
  • 曜日表示

日付と曜日表示が必要かどうかは難しいが、上3つはとても重要である。

特に耐衝撃と切れないゼンマイは機械式時計の課題そのものであるからだ。

そんな高機能のセイコー5は一朝一夕には出来上がっていない。

その系譜はセイコーの標準機クラウンまでさかのぼれる。

  • クラウン     セイコー機械式時計の基礎確率
  • ライナー     薄型の手巻き時計開発
  • マチック     ライナーに自動巻き機能を追加
  • スポーツマチック マチックの耐衝撃と防水を強化し、原価低減したスポーツモデル
  • セイコー5    スポーツマチックに付加機能を追加「5」をブランド化

大雑把にこんな流れである。

名前が似ているせいか、マチックまで廉価版なのかと勘違いしてしまいそうだが、マチックはれっきとした高級機である。

マチックとスポーツマチックの間が大きな変換点でターゲット層と想定使用環境が異なる。

亀戸精工舎と諏訪精工舎のムーブメント

それはそうと、今回のcal.7019は亀戸精工舎製の時計のようだ。

なぜか不思議なことに、亀戸精工舎のほうが、諏訪精工舎のムーブメントよりもよくできていることが多いと感じる。

私の知る限り、60年代開発されたセイコーの機械式時計ムーブメントで現在まで同等設計で生産され続けているのは、この70系と52系ムーブメントのみであると思う。

70系は7S26やNH36として現在も多くの時計に搭載されている。

52系は4S系として準高級機に搭載されている。どちらも故障が少なく、高い信頼性を誇っている。

どちらも亀戸精工舎のムーブメントだ。

それにもかかわらず、ビジネスとして成功したと思われるのは、諏訪精工舎の時計ばかりなのである。

クラウンや56系のロードマチック、グランドセイコーブランドなど、諏訪精工舎のキーワードだ。

クロノスや52系のロードマチック、キングセイコーブランドなど、亀戸精工舎のキーワードだ。

上記キーワード知名度や市場に流れている時計の数を見ても、当時の売れ行きは明らかである。

しかしながら、クラウンはいざともかく、56系はプラスチック部品採用のチャレンジが裏目に出て、現在ではカレンダーの早送り機構に故障が目立つ。

グランドセイコーブランドにおいても、ファースト、セカンド(44系)、45系と亀戸精工舎のムーブメントが搭載されているなど、実に不思議なすみわけである。

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順次分解して中身を確認する

まあ、話は大きくそれたがどんどん分解していこう。

長年のほこりや汗でスクリューバックはがっちり固定されている。私はこれを汗ロックと呼んでいる。

アンティーク時計あるあるなので、ここで外れなくても根気よく頑張ろう。

こんな時に最もやってはいけないことは、熱を加えることである。

鉄ならいいかもしれないが、これはステンレスケースである。焼き付いて開かなくなる可能性がある。

スクリューバックケースとの戦いを終えるとそっけないムーブメントが顔をのぞかせる。

あまり高級感はないが、しっかりと作られているムーブメントだ。

このころになると、さすがのセイコーも見えないところにコストを掛けなくなってきている。

そして、ハンマーにある矢印の意味は正直理解できない。マジックレバーなので回転方向は関係ないはずだ。

まあ、細かいことは気にしないで分解を続けよう。

この70系や7S系の特徴として、リューズを引き出した際に初めてオシドリが現れるギミックがついている

基本リューズを押し込んだ状態でオシドリ操作をしてきたため、しばらく頭をひねってしまった。

オシドリを押しながら静かにリューズを引っ張るとするっとリューズが抜ける。

ムーブメント円周を覆っているスペーサリングを外す。

ムーブメントをケースから外す

他に特にムーブメントを固定している機構はないのでスルッとケースからムーブメントが抜ける。

角穴車の様子からムーブメントの状態は決していいとは言い切れない。

リューズをもとに戻したら、邪魔なハンマーを取り外す。これは裏蓋を開けた後にとってもかまわない。

正直取り忘れていたというのは内緒である。

文字盤を固定している留め具を90°程ずらし文字盤を取り外す。

この時点で、針一式が欠品してるわ、マジックレバーの受けの歯車の固定ネジは欠品してるわでグダグダなムーブメントである。明らかに部品どりされた個体である。まあ、いわゆるハズレ玉である。

そして、当たり前だが、各部品に高級感はない。しかしながら先日の粗悪ムーブメントを見た後で、心が強くなっている私は意にも介さない。

カレンダー側の分解

文字盤を取り外すとカレンダーリングが見える。7S26との違いはこの心強いCリングであろう。純正品かはわからないが大きくてありがたい。

心強いCリングを外していく。曜日表示リングの固定はこれのみだ。

曜日表示リングを外した状態。7S26や56系ロードマチックと異なりプラスチック部品は見当たらない。

正直、機械式時計部品にプラスチックを使用する意図は不明だ

56系はプラスチックの流行もあるので理解できるが、7S系に搭載されているのは理解に苦しむ。

原価低減もあるだろうが、他の部品をプラスチック化しないのは不自然だ。

曜日表示リングを押えているバネを取り外す。固定ネジは極小のものが2つ。

まったくもって、分解、組み立てが割に合わないムーブメントである。

7S系のムーブメントは、オーバーホール代金のほうが新品ムーブメント代金よりも高額なので、使い捨てが基本であるといっても過言ではない。

70系はオーバーホールする価値があるかどうかギリギリの線だ。構造はかなり複雑である。

日付表示リングを回している部品を取り外す。

日付表示リングを固定しているプレートを外す。これまた極小のネジで固定されている。

気の遠くなるような構造が現れた。右のほうはプッシュチェンジ機構の一部であろう。下のほうの謎のバネは、日付表示リングを押えるバネであろう。バネ部品紛失の対策にしか見えない逸品だ。

謎のバネ部品が鎮座している

日付表示リングを外すと、、、なんじゃあこりゃー?

でかいバネで円周部が埋め尽くされている。まるで当てつけのような、徹底的なバネ部品紛失対策に見える。

製造工程やサービス部門からクレームでも入ったのだろうか。

まあ、気にせず作業を続けよう。短針を回している歯車を取り外す。

ツツカナを取り外す。ツツカナは2番車に圧入されているので、これを外さないと2番車は外せない。私は剣抜きを使用して取り外している。

ここからは、特に固定されていない歯車をポロポロ取り外していく。

なんか、もう間違え探しだが、中心やや上の歯車を取り外した。日付表示リングへ回転を伝える歯車である。

謎のバネを取り外す。確かに紛失リスクは激減している。このことから70系はまだオーバーホールを前提とした構造となっていることが判明した。

長く愛用できるいいムーブメントである。

ええっと、、、日付表示リングを回している歯車の上の部品を外した。

この部品の役割はちょっとすぐにはわからないが、きっと必要な部品なのでなくさないようにする。

結構でかめの歯車が取れました。なんかもうこの辺にしとこう。あとはばらしても大して時計の機能に関係がなさそうだ。

あくまで、このブログの目的は内部構造の確認とリバースエンジニアリング、それとあわよくば、稼働したらいいなというコンセプトなので、全バラシや部品を削り込むような調整は実施しない

やっとでムーブメント側の分解に入る

さて、面倒な部分の分解が終わったので、いよいよムーブメントの分解に入る。

機械式時計において時計の駆動機能に関係のない機構はすべて付加機能である。

よって、1番車から始まり、2、3、4番車、アンクル、テンプまでが本体である。

マジックレバーの歯車は簡単に抜けた。軸を見てもわかる通り、確実に留めネジ、しかも逆ネジが鎮座していたことは間違いない。

あらかた、逆ネジの紛失か破損のリカバリーのために部品どりされたのだろうが今となっては謎である。

我々のイメージと異なり、腕のいい時計師ばかりではない。

マジックレバー軸の歯車は外れそうにないので、角穴車とプレートを外していく。

写真では、直でプレートを外しに行っているが、角穴車から外すのが正しいので注意してほしい。

当然、コハゼを解除して、ゼンマイを開放することを忘れないようにする。

ちなみに写真からもわかる通り、私は忘れてしまった。よーく見ると角穴車2時の方向にコハゼが存在する。

さらに、写真を撮り忘れていることから、ゼンマイを解除し忘れたことに気づき、錯乱していた様子がわかる。

ゼンマイが暴れると同時に、プレートと一緒に1番車と4番車と3番車が外れてしまった。

テンプの取り扱いは特に慎重に

一度深呼吸をして、テンプを外しにかかる。

2番車を留めているプレートを取り外す。

ガンギ車を取り外す。

2番車を取り外す

アンクルを留めているプレートを取り外す。

アンクルを取り外す。

ほぼすべての部品が外れた。

外れた部品は、適宜洗浄とオイルアップを行う。

部品を見てわかることは、まずはプラスチック部品が見当たらないこと。

オーバーホールを前提に作られていること。

金メッキ部品もいくつか見られること。

曜日のプッシュチェンジも本機にしか見られない構造である。

このことから基本設計を引き継いでいる7S26、7S36、4R26、4R36とは一線を画している構造といえる。

また、私見であるが自動巻き時計には、手巻き機構は必要ない。

そして、機械式時計にはハック機能は必要ない。

どちらもあってもよい機能である。

しかし、細かいことを言えば、手巻きのトルクは自動巻きのそれと比べて大きい。

そして、自動巻き機構と手巻き機構を切り替える部分があり、そこに大きな負荷がかかる。

また、秒針を合わせるハック機能であるが、4番車やテンプを押える構造のものが多く、ムーブメントへの負荷が大きい。

機械式時計において秒針は、「機械が動いていることを確認する部品」くらいに思っておこう。

数十万円出した機械式時計でさえ、1日10~30秒程度のずれは十分仕様の範囲内である。

姿勢変化に温度変化、オイルの劣化、部品の摩耗など、時刻ずれの原因は枚挙にいとまがない。

それ以上の精度が欲しい場合は、クォーツ時計か電波時計を選択するほうが幸せになれる。

次回は組立を実施する。


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