- ブランド名:セイコー(諏訪精工舎)
- モデル名:ロードマーベル
- ムーブメント型式:Cal.5810
- 振動数:18000回/h(2.5Hz)
- 使用石数:23石
- 発売年:1958年
- ケース:14K金貼りケース
- ラグ幅:18mm
こんにちは、今回メンテナンスするのはセイコーのロードマーベルだ。
国産機械式時計マーベルで世界の時計界を驚かせたセイコー。
実用に耐えうるムーブメントを開発したのちに必要となったのは、フラッグシップとなりうる高級機であった。
信頼性の高いマーベルのムーブメントをベースに、多石化と入念なパーツの仕上げで、国産初の高級機が完成した。
それこそが今回紹介するロードマーベルである。
明確な基準はないが、時計界では「ロード」とか「スペシャル」とか「デラックス」とかの名前がつくと、普及機から一線を画す高級機である可能性が高い。
まずは外観のチェックだ。不動品とのことで手に入れたが、明らかにリューズがないので、動きようがない。
ただ一つの操作部位であるリューズがないのであれば、ケースを開放して確認するほかない。
その他外観は、傷と汚れがあるものの、ケースの仕上げはさすがといったところだ。
本品は金貼りのケースであるが、18金無垢のケースもラインナップされていたようだ。
15型のケースも当時からすれば大型のものだ。
長針はドルフィン針から別のものに変更されているようであるが、アンティークにおいては、これもまた味である。
文字盤はSD(スペシャルダイアル)であり、インデックスは14金か18金の無垢材が使用されている。
現在では考えられないような豪華な仕様である。私はこのSDダイアルが大好きだ。
ほかにAD文字盤、ED文字盤が存在するがどれも立体感がある。
セイコーの文字盤インデックスは後にAD文字盤に統合されていく。
SD文字盤が確認できるのはマチックやライナーあたりまでだ。
現在はプリントのみの文字盤が多いので、この辺もアンティークの魅力である。
まあ、販売当時の価格は大卒初任給ほどであるので、当然といえば当然である。
前置きが長くなったが、分解していこう。いつも通り裏蓋をデザインナイフで浮かせていく。
正しく組み立てられていれば、リューズと反対方向に隙間が確認できるはずだ。
時計の成り立ちからすれば、リューズのあるほうが上であるので、下に開け口があるのは自然だ。
しかし、もう一方で腕時計においては外観部分の横であるので、開け口は下側のラグの間にあるべきとの見方もある。
まあ、この辺も好みでよいかと思う。
裏蓋が開くと美しいムーブメントが現れた。
チラシテンプこそないが、大きく磨きこまれた角穴車、2番車の軸にもねじ留めの伏石、堀文字に黄色の墨入れとプレートの表面処理。
まさにフラッグシップにふさわしい内容だ。
これらの美しい部品は、別記事で細かく見ているので興味のある方は参照していただければと思う。
ちなみに本機が生産された当時はグランドセイコーは存在していないので、ロードマーベルがセイコーのフラッグシップ機である。
ちなみに同じロードマーベルでも、後期型のロードマーベルのムーブメントはクラウンベースである。
その頃はグランドセイコーもラインナップされていたことから、準高級機の位置づけとなっている。
一つ一つの部品の仕上げや構造も基本設計も前期型の本機とは異なる。
ただし、精度と信頼性、耐久性は大型化された後期型が圧倒的に優れている。
ムーブメントを心のままに鑑賞したら、文字盤側を分解していく。
リューズの反対側に隙間があるのでケースとベゼルの間にデザインナイフを入れて、ベゼルを浮かしていく。
ベゼルと風防が外れた状態。まあ、大きな問題は感じられない。
続いて、針を外していくのだが、リューズがないため針がそろわない。
まあ、致し方ないので慎重に外していく。文字盤への傷防止のため、ビニールで保護しておく。
針が外れた状態、文字盤はSDであるのでインデックスが曇っていても磨けばキラキラになる。
ケースにムーブメントを固定しているネジを2か所取り外し、ケースからムーブメントを抜き取る。
ん?なんか出てきた。リューズと巻き芯がないのでそのあたりの部品だと思うが、文字盤も外してないのに出てきた。
まあ、不動品なのでこんなこともある。
ムーブメントのサイドに文字盤を固定しているネジがあるのでこちらも2か所緩める。
文字盤が外れるとムーブメントがその全貌を現した。
こちら側もねじ止めの伏石が3か所と手抜きが感じられないまじめなムーブメントだ。
ここからは、ムーブメントの分解を行う。
リューズは欠品であったので、手持ちにあった適当なリューズを使っている。
マーベルかクラウン、ローレルあたりが適合するだろう。まあ、現合で確認できれば大きな問題はない。
時針を回している歯車を取り外す、これは特に固定されていないので、するっと抜けるはずだ。
続いて長針を回している歯車、ツツカナを剣抜きを使って抜く。これは2番車に圧入されているため、ズルっと抜ける。
ツツカナが抜けると2番車と4番車の軸が現れる。
2番車の軸に穴が開いているからこそ、秒針の回転軸を中心(センターセコンド)にできる。
文字盤側はこのくらいにして、輪列側を分解していく。
高級機ではあるが、構造そのものはシンプルであるので、メンテナンスは比較的容易だ。
手順はマーベルやクロノスと同じである。
まずは落ち着いて、リューズを保持し、角穴車の逆回転防止装置を押えて、ゆっくりとゼンマイを開放していく。
本機は特にゼンマイは開放済みであったので、リューズ以外は問題なく稼働しそうである。
角穴車を留めているネジを取り外す。大抵の場合ここは正ネジであるので、反時計回りに回すと取り外しできる。
きれいに磨きこまれた角穴車が高級機であることを主張している。個人的にはとても好きな部品だ。
角穴車を取り外すと文字通り四角い穴が見える。なんと本機は下にのぞかせた1番車も金メッキが施されている。
セイコーの気合の入れようがうかがえるか所である。
1番車を固定しているプレートを固定しているネジを2か所取り外す。
1番車を固定しているプレートを取り外す。美しい1番車(香箱)がその姿を見せる。
続いて輪列を固定しているプレートのネジを2か所取り外す。
これまた美しい輪列とピンクに透けるルビーが見えた。
秒針を回している4番車と伝達用の3番車を取り外す。
動力である1番車を取り外す。ここまで、さすがに高級機といった部品と仕上げの数々である。
現在の機械式時計でここまで作り込まれているものは稀有である。
アンティーク品の作りが古く、作り込まれているとはいっても、精度や品質、信頼性においては現行機のほうが優れていることが多い。
それは、工作機械の工作精度の向上など生産技術の向上が、材料や仕上げのコスト低減を可能にした。
ここからはより繊細な部品を分解していく。
ここを破損すると時計が動作しなくなる可能性があるので、より注意して作業すること。
私も意外であったのだが、機械式時計は、摩耗していくと時間のすすみが早くなる傾向がある。
遅れていく場合もあるが、大抵は早くなっていく。
では、心の準備ができたら分解に入ろう。
まずは、時計の中で最も繊細な部品テンプを分解する。留めネジを緩めて、プレートを浮かす。
テンプを取り除くとアンクル抑えが見えてくる。
テンプの下のプレートはきれいに表面処理されている。
これも高級機ならではの仕様だ。
多くのムーブメントを見ることによって時計の価格の決まり方がわかってくると、ムーブメントを見ると製品自体を知らなくても大体の出来が見えてくるようになる。
同時にレプリカやコピー商品などはムーブメントのコストを削減するしか方法がないことに気付ける。
たとえ偽物だとしてもその時計の価値がストレートに出てしまうのがムーブメントである。
話がそれたが、引き続きアンクルを取り外していく。
ネジ2本をとりはずし、プレートを取り除く。
ルビーの爪が2本ついたTの字のアンクルが見えた。
アンクルをプレートから取り除く。
2番車を押えプレートの留めネジを取り外す。
ガンギ車と2番車が見えた。
ガンギ車を取り外す。
2番車を取り外す。
以上であらかたの部品を取り外し完了した。
各部品を超音波洗浄機で洗浄し、ごみや油を振り落とす。