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羽のように軽くSEIKOゴールドフェザーの分解

  • ブランド名:セイコー(亀戸精工舎)
  • モデル名:ゴールドフェザー
  • ムーブメント型式:GF
  • 振動数:18000回/h(5振動、、2.5Hz)
  • 使用石数:25石
  • 発売年:1960年
  • ケース:14K金貼りケース
  • ラグ幅:19mm

こんにちは、今回は45キングセイコーと並び、亀戸精工舎の生み出した異端児、セイコーゴールドフェザーのメンテナンスを行う。

この時計が発売されたころは、各社とも薄型であることを競っていた経緯がある。

諏訪精工舎のライナーをはじめ、シチズンではダイヤモンドフレークが開発された。

同時に薄型時計の開発は、自動巻き時計のハンマーのスペースを作り出した。

現在の自動巻き時計が今の薄さであるのは、この時の技術競争が生かされているのだ。

なぜ、45キングセイコーとこのゴールドフェザーがセイコーの異端児であるのか。

それは、セイコー史上最も高性能を追求したのが45キングセイコー。

セイコー史上最も薄さを追求したのがゴールドフェザーだからだ。

さらに、どちらもコンセプトに従い、徹底的に最高であること追及したにもかかわらず、次機種に引き継がれることがなかった悲しみをまとっているからである。

亀戸精巧舎とは実に不思議な歴史であるといえるが、それは別の機会に書くこととする。

では、さっそく本機を見ていこう。

いい感じにボロボロである。これはとても腕が鳴る。

はげたメッキがハードな使用状況を伝え、文字盤の痛みが長期放置を思わせる感じである。

リューズを引っ張り時刻合わせを試みる。

問題なく針はクルクルと回転し、歯車周りの不調は感じさせない。

では、リューズを巻き込んでゼンマイを巻いていく。

厳かに、秒針が動き時を刻み始める。

??

いや、いいんだけどね。別に動く分にはいいんだけどね。

しかし、このブログの趣旨からすると、不動品を動かしてきたのなあとは思う。

まあ、これは、放置される前にある程度メンテナンスされてきたようだ。

残念半分、うれしさ半分で裏蓋を開けていく。

デザインナイフで傷をつけないように外していく。

まあ、すでに傷だらけだから気にすることはない。

ここでも、皮脂やさびが見て取れる。

裏蓋を開けると外観からは想像できないほどきれいなムーブメントが出てきた。

やはり、ムーブメントはある程度メンテナンスされてきたもののようだ。

このころのセイコーのムーブメントは原価低減の香りがほとんどしない。

あの、ロレックスのムーブメントと比較しても素人が感じられるほどの差はない。

ムーブメントを鑑賞したら、前面側のベゼルを外していく。風防も傷だらけで、歴戦の迫力が感じられる。

ここもリューズの反対側にわずかな隙間が確認できるのでそこから開けていく。

汚れた文字盤に、薄さを強調するような繊細な針が取り付けられている。

これも昨今のパワー感あふれる機械式時計の流行とは異なる。

クォーツムーブメントのある今は、薄型の機械式時計はビジネスとして成立しないため、今後このような時計はしばらくお目にかかれない。

最新の注意を払い、ビニールで保護し剣抜きで針を抜く。

これで、前面はすっきりした。続いて、リューズを引き抜く。

これは、ネジ式のオシドリであるので、少しずつ緩めながら、リューズを引き抜く。この時全部緩めると反対側にある部品が外れるので注意する。

ズルっとリューズと巻き芯が引き抜けた。こちらも表面がさびているが、替えがきかないので細かいことは気にしない。

どうでもいいことであるが、年代的にリューズはオリジナルでないと思うが、あまりにセンスがない。というか、ダサい。巻きにくい。

しかし、特に替えがあるわけでないので、このまま再利用する。

ムーブメントを固定しているネジを外すとケースからムーブメントが外れる。

ムーブメントのサイドにある文字盤を固定しているネジ2か所を緩め、文字盤を外す。

無事ムーブメントを取り外すことができた。

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文字盤を外すとさっそく異端児ぶりを発揮してくる。通常、文字盤側には見えないものが見えてきた。

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そう一番大きな歯車の動力車、主ゼンマイを収めている一番車の香箱だ。

通常はメインプレートの裏側にあるため、文字盤側からは見ることができない。

しかし、こいつはメインプレートを削り込んでまで、薄さを追求している。

最初に短針を回している歯車を取り外すが、1番車と干渉してるんじゃないかぐらいだ。

なんか、歯車の軸まで短い感じがするのは、もはや気のせいではない。

0.1mmどころか0.01mmを攻め込んでる気迫を感じる。製造部を相当いじめたに違いない。

セイコーレベルの数の量産品としては狂気の沙汰である。

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気を取り直し、秒針を動かす歯車の軸に圧入されているツツカナと呼ばれる分針を動かす歯車を取り外す。

とても繊細な部品だが剣抜きで容易に抜くことができる。

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テンプを固定するダブルブリッジが亀戸精工舎のムーブメントであることを主張する。

クロノスのムーブメントと比較すると直線的なデザインとなっている。

気になるのは一番車の下側に見慣れない石がついていることくらいか。

全体的にヘアライン仕上げに、堀文字への入れ墨、25個のルビー、角穴車に磨きこまれた装飾があることから、準高級機であることがうかがえる。

観察を終えたら、続いて、機械側の分解にうつる。

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まずは、動力の解放から行う。これを怠ると最悪は部品の破損となるので、確実に行う。

リューズを軽く巻き込んだ後、手で押さえたままコハゼと呼ばれる逆回転防止装置をずらし、少しづつゼンマイを開放していく。

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ゼンマイを開放したら角穴車を固定しているネジを外す。

こちらは正ネジであるので、反時計回りに回せば取り外すことができる。

このあたりの歯車は最もトルク(力)のかかる歯車である。

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角穴車を外すとその名前の由来である四角い穴が姿を見せる。

角穴車の下にはこれまた繊細なコハゼを制御するバネが見える。

これをなくすとゼンマイが止められず、時計が機能しなくなるという重要部品だ。

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そんなプレッシャーを恐れず、一番車を固定しているプレートを外していく。

ネジ2つを緩めてプレートをフリーにする。

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ネジを外したら、サイドにある隙間にマイナスドライバーを差し込み、プレートを浮かす。

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プレートを慎重に取り外していく。プレートに残っている部品は特に時計の精度に大きく影響しないため、私の場合、取り外しは行わない。

このあたりで確信となったのはいちいち部品がちょっとずつ薄い。

同じ薄型ムーブメントのライナーを分解しているときは感じなかった違和感がある。

なんとなくであるが、このムーブメントは赤字のにおいがする。

以降に量産、流用されない訳は生産性がよくないからであると推察する。

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さらに分解を続ける。輪列を固定しているプレートを取り外す。ネジ3個で止められているのでこちらを外す。

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ムーブメントのサイドからプレートを浮かし、プレートを取り外す。

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プレートを取り外すと驚きの光景が広がっていた。

なんだっけこの写真右下の歯車?えっとなんか知らないけど1個多い?

私が知る限り、動力の1番車、時針を動かす2番車、トルクを回転数に変換する3番車、秒針を動かす4番車だと思っていたのだけど(参考外部リンク)

よく見ると、謎の歯車は1番車と直結しているようだ。そして3番車とつながっている。そう、まるで2番車のようだが、そこに時針はない。

ということは、2番車のトルクから回転数への変換するだけの歯車が追加されている。

その理由は、もしやとは思うが、この圧倒的な後付け感、(以下妄想)

社員A「いろいろ薄くしたけど、これ以上は無理だよ。性能とコストと製造技術の限界。

諏訪のライナーともあんま変わんねーよー。秒針なくせば4番車分を薄くできるんだけどなー」

社員B「今回のは、婦人用時計じゃねーんだよ。秒針はいるだろうどうしたって」

社員C「じゃあ2番車の歯車を4番車と同じ面に置けば、2番歯車分とメインプレート分だけムーブメントが薄くなるんじゃね?」

社員D「あれ?それナイスアイディアじゃね?」

社員A「でもそれだとコストが、、、」

社員B「世界一薄い時計作ってんだぞ、そんなのカンケーねー」

とかいうやり取りがあったんじゃないだろうか。

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まずは4番車を引き抜く、特に難しいことはないが、軸が長いので曲げないように注意して作業する。

何やら、2番車おさえのプレートも形状が普通ではない。

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そして、問題の謎車を外していく、やはり、1番車直結の歯車のようだ。

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続いて、3番車を取り外す。

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そして、1番車を外す。ここまでの作業は特に難しいことはない。

1番車を外すと他のムーブメントでは見ることができないメインプレートの肉抜きが確認できる。

諏訪精巧舎のライナーでもここまではしていない。

何度も思うが、歯車を一つ増やしてまで、薄くしたかったその熱意は常軌を逸したものが感じられる。

クラウンとクロノスでほぼ完成の域に達したムーブメント設計のほとんどを破棄した新設計部品のオンパレードだ。

しかも、後にこれらの部品は専用設計部品であったことが確認できる。

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ついにテンプの取り外しにかかる。亀戸精巧舎の特徴であるダブルブリッジのテンプ抑えだ。ちなみに方振れ調整機構はない

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ドライバーなどでプレートを浮かしていく。

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渦を巻いたヒゲゼンマイを破損しないよう細心の注意を払いながらテンプを取り外す。

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続いて、2番車おさえのプレートを取り外す。

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ネジを外したら、いつもどおりプレートを浮かす。

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すると出ました。時針を回すだけの2番車。

ん?何やらまた見慣れない部品が鎮座しているが、とりあえず無視する。

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ガンギ車を外す。

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アンクルおさえのネジを外す。

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アンクルおさえのプレートを浮かす。プレートにアンクルもついてきてしまったので、同時に取り外す。アンクルはとても繊細な部品であるので、破損しない注意する。

なんと先端には二つの人口ルビーがはめ込まれ、接着されている。

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2番車と謎部品を取り外す。

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分解した部品は、超音波洗浄機で固着した油や汚れを取り除く。

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こいつが、問題の謎部品。通常の機械式時計には搭載されていない。

形状や設置場所から、これは、1番車の逆回転防止機構であると推察する。

これが必要な理由はいくつか考えられるが、ゼンマイが切れた際の内部機構の保護が有力だ。

それだけ、各部の強度を追い込んだためと推察する。(以下妄想)

社員A「いやー、無事ムーブメントが薄くなってよかった。目標仕様を大幅達成だ」

社員B「ずいぶんいろいろ無理したもんなー」

社員C「じゃあ、ゼンマイ巻き切り破壊試験やるかー」

社員A「えっ!!?」

社員B「ん?いつもやってるだろ?」

社員A「ちょっと、輪列保護機構を追加してきます。追加予算もらいます!!」

社員C「えっ?ちょっ?これ以上予算ないよ?おーい!!」

次回は組み立てフェーズに移行する。

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