- ブランド名:ウォルサム
- ムーブメント型式:seaside
- ムーブメントサイズ:6S
- 使用石数:7石
- 振動数:18000回/h(5振動、2.5Hz)
- 製造年:1897年
- ケース:シルバー925無垢ケース
- 時刻調整方法:ペンダントセット
- カタログ定価:$-
こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう!
今回はアメリカのウォルサム社の懐中時計を分解、メンテナンスしていく。
本品もいつも通りの不動品だ。ケースの汚れがひどいが、100年以上前のものであることを考えると、残ってるだけで奇跡的である。
しかし、ケース素材が銀であるため、研磨剤で磨けばある程度の輝きは復活するはずだ。
7石の6サイズということで、バリバリの普及機である。気を遣うことなく思いっきりばらしていける。
しかし、本品はいちまつの不安がよぎる。裏蓋にあったであろう彫刻が削れるほど磨きこまれた後のもののようだ。ちょいと今回はだめかもしれない。
気を取り直して、裏蓋をあけよう。意外なほど中身はきれいに見える。3/4プレートといったところだろうか。
一時期、ムーブメントをプレートで隠すのが流行った時期があるようだ。
中にはフルプレートというムーブメントを覆ったモデルもある。
ムーブメントフェチの私からするとなんてことをしてくれるんだと感じるが、またそれもいい。
裏蓋の内部にはケースがシルバー925であることが刻印されている。
なぜ、100%にしないのかという疑問がわくが、これは決してケチっているわけではない。
金や銀、プラチナなどはとても柔らかい金属で、身に着ける装飾品としては、柔らかすぎるのである。
そのため、他の金属を混ぜることにより、硬度、強度を増しているのだ。
そのため、銀無垢のものは80%~95%程度のもの、金無垢のものは14金~18金が使用されている。
ではさっそく、ムーブメントをケースから外していく。
あら?たまにあるのだが、不動品と思ってたら、ちょっと歯車を触っただけで、動き出すものもある。
汚れが詰まっていただけなのかもしれない。
まあ、またすぐ止まるのは自明であるので、メンテナンスを続けていく。
文字盤側のベゼルを外していく。本品はスクリュー式ではなくスナップ式である。
どちらが良いとは言えないが、個人的にはスクリュー式のほうが高級感がると感じる。
パカッとベゼルが開いた。なんとも不思議なケースである。
どうやらハンターケースがベースであるとみられる。
この構造は、リューズを押し込むことで蓋が開くものだ。
今回のようなオープンフェイスで必要な構造でないはずなのだが、まあ気にしないでいこう。
ムーブメントを取り外すと100年前とは思えない文字盤が出てきた。
多少錆は浮いているものの、きれいなものだ。
琺瑯ダイヤル、エナメルダイヤルといった類はとにかく美しく、耐久性が高い。
昨今では使われなくなったのが実に惜しい。
願わくば、わたしは、七宝焼きの文字盤が欲しいと思っている。
剣抜きを使用して、針を引き抜く。
焼き物のダイヤルはとても固いので傷がつきにくいが、割れやすいので注意すること。
ビニールなどで保護しておくと精神衛生上よい。
普及機にもかかわらず、針も青焼き針である。実に美しい。
針が取れた状態。ローマ数字の文字盤も雰囲気があって好きだ。
ムーブメントサイドの文字盤を固定しているネジを緩め、文字盤を取り除く。
すると実にシンプルな構造が顔を見せる。
ここで取れる歯車は除去しておく。時針を回している歯車と分針を回している歯車(ツツカナ)を外す。
ムーブメントを裏返し、輪列側を分解していく。
このころのアメリカ懐中時計は普及機にもかかわらず豪華な仕様のものが多い。
琺瑯ダイアルもそうだが、プレートにも美しい彫り物が施されている。
ダマスケーンというらしいが、実にいい。ぜひ腕時計にも施してほしい。
さあ、ゼンマイを開放していこう? あれ?コハゼがない、というか角穴車がない。
もしや、反対側なのかと思い、それっぽいあたりに穴が開いていたので、棒でつつてみた。
「ズギャ」っという音とともにゼンマイが開放されたようだ。
まあ、やっちまったようだ。
よい子のみんなは、リューズで制御しながら開放しようね。
あとは、破損がないこと祈りながら分解していく(T_T)。
1番車(香箱)を留めているプレートを取り外す。固定ネジは2か所だ。
香箱が姿を見せる。やはり角穴車は見当たらないので、裏面にあるようだ。
続いて、輪列を固定しているプレートを外していく。プレートには「SAFETY BARREL」の文字?
あら?セーフティーバレルってことは、ゼンマイが切れたときに輪列を保護しますって機構なので、さっきのゼンマイ一斉開放のミスはカバーされているような気がする。
普及機とは思えない美しい輪列が現れた。さすがに真鍮であろうが、大きさもあり実に美しい。それていてこじんまりとまとまっている。
しかも、うれしいことに1番~4番車、ガンギ車、アンクル、テンプと力の伝わる順に、円を描くようにきれいに並んでいる。
大きさも徐々に小さくなっており、まるで機械式時計の教科書のようだ。
6サイズの機械であるが、円周部は装飾用と割り切った設計。実に美しい。
驚くべきはプレートで隠れるはずの円周部にまで複雑な彫刻がある。現代ではありえない仕様である。
2番車を外す、これが外れない場合は、裏側のツツカナを外し忘れている可能性がある。
これを外して気づいたのだか、軸に近い小さいほうの歯車がぐらついていた。
あら?っと思ってみてみると2番車の軸にねじ込み式の歯車になっていた。どうやら、これがセーフティーバレルのようだ。
ゼンマイが切れた時や先ほどのように一気に開放されたときに、1番車が急激に逆回転するのを2番車の歯車が外れることで受け流す考え方のようだ。
なるほど、よく考えられている。
アメリカ製品と聞くと大雑把なイメージがあるが、実に精巧かつ細やかに作り込まれている。
3番車を外す。
4番車を外す。
1番車を外す。ココにきてついに角穴車を見ることができた。さすがにここに装飾は見られない。
それにしても組むのが大変そうな構造だ。
角穴車を取り外す。
ツツミ車を取り外す。
金色のガンギ車を取り外す。
ネジを緩め、テンプを取り外す。ここはとても繊細なので、破損、変形に注意する。
最も繊細なのはヒゲゼンマイという渦巻き状のバネだ。
機械式時計はこの部品がほぼすべての根幹であるといっていい。
残るはアンクルのみだが、、、なんだ、変なテープが貼ってある。
100年近くたつといろいろやってるなぁと感じるところだ。
まあ、これがないと精度が出ないんだろう、理由はわからないが、過去に時計師が悪あがきしたあとにしか見えない。
まあいろいろスルーして、アンクルを留めているプレートのネジを外す。
アンクルが見えた。先端の赤いものはルビーである。
7石のうち貴重な2石をここに割いている。あとはテンプ軸受けに4つ、振り石に1つといったところだろうか。
個人的にはアンクル軸に4つ、ガンギの軸に2つ、4番車の軸に2つあたりは必要だと思う。
欲を言えば15石くらいは欲しい。
そのため、私の思う高級機の条件の一つは15石以上であることだ。
アンクルを取り外す。
まあ、こんなところだろうか。ほかの細かいものは特に気にしない方針だ。
分解した部品の一覧である。シンプルな構造ゆえに、それほど部品点数は多くない。
シンプルな機械は実に美しく魅力的である。