- ブランド名:エルジン
- ムーブメント型式:グレード303
- ムーブメントサイズ:12S
- 使用石数:7石
- 振動数:18000回/h(5振動、2.5Hz)
- 製造年:1923年
- ケース:シルバー925無垢ケース
- 時刻調整方法:ペンダントセット
- カタログ定価:$14
こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう!
今回は初の懐中時計のメンテナンスである。
アメリカはエルジン社の製造したモデルである。いつも通り、現状不動品の逸品である。
まあ、リューズが空回りする感触からゼンマイ切れのようなので、テンプの状態からも動力があれば、稼働しそうである。
個人的見解であるが、機械式時計好きの行き着くところは懐中時計ではないかと思うほどの仕様である。
しかも、今回のケースは925シルバー無垢材である。
ステンレスよりも柔らかく錆びやすいが、得も言われぬ輝きを放つ素材である。
メッキではないので、心おきなく磨きこめる。
全体的にいぶし銀となっていた裏ケースをの右半分を研磨剤で磨くと銀本来の輝きを取り戻した。
裏蓋の内側にはKEYSTONE社製のスターリングシルバーであることが記載されている。
しかしながら、銀という素材そのものの取引価格は金と比べると天地の差であるので、素材の価値を過信してはいけない。
懐中時計の醍醐味はなんといっても腕時計では再現不可能な圧倒的なムーブメントの豪華仕様である。
同等のものを腕時計で手に入れるためには、お金以外にも相応の努力が必要となるだろう。
角穴車のみならず、すべてのフレームに模様が刻まれている。
なんと美しいムーブメントであることか。
これがまさかの7石の普及モデルであるというのだから驚きである。
さっそく、分解の準備を進めていく。
最初にゼンマイのテンションを抜いておくことは、腕時計も変わらない。
しかし、その巨大なゼンマイのトルクは腕時計の比ではないので、確実に処置しておくこと。
本機はゼンマイが切れているので、やはりテンションは抜けていた。
ムーブメントをケースに固定しているネジを取り外す。
文字盤側のベゼルを取り外す。工具を入れる隙間は、2時の位置か6時の位置にあることが多い。
これは、モノによってはスクリュータイプもあるので慎重に確認しよう。
ベゼルと風防が外れた。文字盤と針がお目見えだ。ここも現在では考えられない豪華な仕様となっている。
針は青焼き針で、黒に見えるがうっすらと青く輝く風情ある針だ。
アメリカで作られたとは思えない繊細さを感じる。
文字盤も当たり前のように琺瑯文字盤だ。文字の製法は定かではないが、印刷だろうか。
古いものでは手書きもあるというのだから驚きである。
剣抜きで針を外していく。腕時計と比べるとクリアランスは大きめなので、メンテナンスは容易である。
針が取れた状態。ケースから外していこう。この時リューズは引き上げておくほうが良い。
リューズを抜かなくてもムーブメントがケースから外れるのは、腕時計との構造の違いだ。
ムーブメントサイドに文字盤を固定しているネジがあるので3か所緩める。これも腕時計と比較すると1つ多い。
実にシンプルでとても気持ちいい構造である。バネもしっかりと視認できる大きさで無理がない。
短針を回している歯車を外す。
ここでツツカナを引き抜いておく。使用工具は剣抜きを使用している。
では、ムーブメント側を分解していく。このソリッド感がたまらない。
歯車の大きさの割には控えめな角穴車の固定ネジを外す。
ここも歯車のサポートもある丁寧なつくりだ。
隙間から覗く金色の歯車が美しい。
ムーブメントのグレードからすると黄銅か金メッキであろうが、高級機ともなると14金、18金仕様のものがある。
プレートを留めているネジを3か所外す。
プレートを外すと歯車が見え始める。なんという美しい輪列だろうか。感動的である。
2番車を取り外す。
1番車を取り外す。
なんと、ツツミ車周りがごそっと外れる。メンテナンス性抜群である。
テンプも外していく金色のチラシテンプがとても美しい。
懐中時計も腕時計も機械式時計の基本構造は変わらない。アンクル式の時計だ。
さらにさかのぼるとアンクル式以外もある。
プレートの留めネジ2本を緩める。
プレートを取り外す。なんとガンギ車まで金色である。
ここまで来たらドンドンばらしていく。
三番車を取りはずす。
4番車を取り外す。
ガンギ車を取り外す。パーツが大きいので、とても容易である。
アンクルの固定プレートを取り外す。
アンクルだけは、ステンレス製のようである。
これできれいさっぱりになった。
時計の動作に必要な部品はあらかた取り外した。
さすがは、懐中時計。12サイズとはいえパーツは大きく美しい仕上げだ。
とはいえ100年近い時で、たまった汚れは隠せない。これらを超音波洗浄機できれいにしていく。
ここまでの作業で勝手なアメリカのイメージは大きく更新された。
私だけかもしれないが、アメリカとは大雑把で細かいことは気にしないイメージがあった。
しかし、この時計からはモノづくりに対する情熱とプライドを感じさせる。
私もこんなモノづくりをできるよう日々精進していきたい。