- ブランド名:セイコー(亀戸精工舎)
- モデル名:クロノスセルフデータ
- ムーブメント型式:クロノスセルフデータ
- 振動数:18000回/h(2.5Hz)
- 使用石数:21石
- 発売年:1961年
- ケース:14K金貼りケース
- ラグ幅:19mm
こんにちは、今回はクロノスセルフデータのメンテナンスを実施する。
基本的には過去にメンテナンス実施したクロノスと同構造で、デイト表示を追加したモデルである。当時のデイト表示機能は、珍しいものであったかと思う。
クイックチェンジ機能もなく、2000年代現在となっては完全なる無駄機構である。
そのため、ムーブメントの厚みが違い、ケースの形が通常のクロノスと異なる。裏蓋にもSELF DATARの文字がある。
なぜ「デイト表示=セルフデータ」なのかは定かではないが、ここでは気にしないことにする。
状態としては稼働品の状態であり、リューズ操作も問題ない。
ただ、このご時世に機械式時計をオーバーホールする人など稀有なので、一応分解、清掃でメンテナンスしていく。
ちなみに本ブログでは、「分解清掃=オーバーホール」とは考えていない。
プロフェッショナルが行うオーバーホールとは、各部品の寸法確認、調整までを含めていると考えるからだ。
むしろそれを行わないオーバーホールなどお金を払う価値がほとんどない。なぜなら、機械式時計とはゼンマイと歯車という、きわめて単純な構造の積み重ねであるからだ。
そのため、プロフェッショナルとアマチュアの差はそう簡単に埋まるものではないということを前提として作業を行っている。
同時にアマチュアにしかできないこともある。今回のように写真を撮りながら作業を記録することだ。
良くも悪くもプロフェッショナルは時間に追われているので、時間の遊びがほどんどない。ケースの研磨など、時間をかけて手で磨けることもアマチュアの醍醐味である。
プロフェッショナルであれば、研磨装置を用いほとんどの傷を消すため、ケースが痩せるなどということが起きる。手で磨いた程度ではケースを痩せさせることなどできない。
前置きが長くなったが、さっそくケース裏蓋を開放していく。
ムーブメントの見た目は、まんま21石のクロノスである。ムーブメント中央4番車の石が特殊な形をしている。
この構造となった原因は定かではないが、44キングセイコーの鎌付き機械と関係がありそうな感じはする。
この曲線デザインは、この時代だからこそ許されたといえる。明らかに図面が大変なことになっているのと、製造、検品だって容易ではない。
そのためか、後のモデルになるほど、直線的なデザインになっていく。
個人的には、この曲線デザインが大好きだ
裏蓋に続いて、ベゼルと針を外していく。
3時の位置の小窓から日付表示が顔をのぞかせる。やはり後のモデルと比べると重厚な感じがする。
ネジ式のオシドリを緩めリューズを引き抜く。ここで全部ネジを外さないほうが良い。
ズルっと巻き芯が引き出せた。特に破損はないようだ。最初はとても華奢に見えた巻き芯だが、意外なほど硬い素材でできているようで、曲げるのも折るのも難しく、錆にくいという良い素材だ。
ムーブメントを固定しているネジを2か所外し、ケースからムーブメントを取り外す。
ムーブメントを取り外したら、ムーブメントサイドにある留めネジ2か所を緩め、文字盤を外す。ここのネジも緩めるだけで大丈夫だ。
おおっと、ここで、セルフデータっぽいのが出てきた。
なんだろう、この得も言われぬ日付表示機構。後のもの(例:56キングセイコー)と比べるとあまりの違いに驚く。この機能のためにわざわざプレートを1枚追加している。
さらにリングの偏芯ぶりが半端ない。文字もわずかに傾斜しているように見える。
リングは焼つけだろうか、素材は定かではないが、相当の気合が入った構造で故障の空気は感じない。そしてこの圧倒的な後付け感が心を刺激する。
とても興味深い構造となっていた。メインプレートも新規構造であるので、やりようによっては簡素化の余地が多く感じられる。
しかし、開発期間が限られていたのだろう、設計流用前提で開発された形跡が見て取れる。
ここからはクロノスセルフデータのムーブメントの分解を実施する。
突っ込みどころ満載のムーブメントであるが、実に質実剛健で故障の確率はとても低い優秀なムーブメントだ。
日付表示リングを留めているプレートの2つのネジを外すことでプレートが外れる。
これで、ある程度見覚えのある光景が見えてきた。
日付表示リングを回す歯車と短針を回している歯車を取り外す。
ここまでくれば、ほぼクロノスと同様の構造だ。長針を回しているツツカナを剣抜きで引き抜く。
セイコーのムーブメントとしては、クロノスとクラウンで一定の完成形となっている。
では、ムーブメントを裏返して歯車の分解にかかる。
最初に主ゼンマイのテンションを抜いておくことを忘れないようにしよう。
角穴車の逆回転防止装置、コハゼを固定しながらリューズを保持しながらゆっくりとゼンマイを開放していく。
角穴がる間を固定しているネジを外す。これは正ネジなので安心して反時計回りでばらしていく。
ここで、糸のようなバネが見えるが、コハゼをばらさない限りは外れることはないであろうが一応注意すること。
1番車を固定しているプレートの固定ネジを外す。
主ゼンマイを収めている1番車(香箱)が顔をのぞかせる。
輪列を固定しているプレートのネジを外す。
輪列がプレートの下から現れた。やはりごみがたまっているようである。
長らくメンテナンスされた跡がない。
ムーブメント全体としては目立ったダメージはなく、良好な状態である。
秒針を回している4番車を取り外す。
続いて3番車を取り外す。
さらに、1番車をメインプレートから取り除く。
今回はここまでとする。とてもいつも通りの構造で安心できる。
やはり長く使うならこのような安心できる構造のものがよい。
ここからはテンプ部分を分解していく。
テンプはまさに時計の最重要部品であり最も繊細な部品であるので、細心の注意で取り扱うこと。
ここのぐるぐる巻いたヒゲゼンマイが破損すると時計として復活することができない。
S字のテンプ押さえプレートを固定するネジを2か所取り外す。
慎重にプレートを浮かしてから、慎重にテンプを取り外す。
テンプを取り外すと2つ目の重要部品であるアンクルが姿を見せる。
アンクル抑えプレートの固定ネジを2か所取り外す。
プレートと一緒にアンクルもついてきた。どうやら汚れが挟まったか、固着しているようだ。動作そのものはしているようだが、確実に抵抗となっているはずだ。
残るは、ガンギ車と2番車だけだ。
プレート固定ネジを2か所取り外す。
今度は、ガンギと2番車両方ついてきた。別途ゆっくりと取り外しておく。
これで、大方の部品は取り外し完了だ。各部品を超音波洗浄機で汚れを落とす。
さすがは、クロノス各部品も大きくて丈夫、メンテナンスを前提としたつくりとなっている。
最近の使い捨ての時計の構造とは一線を画す。