G-SHOCKERの道は深く遠い
こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう!
今回は今も世界中でマニアを生み出し続けるG-SHOCKについて書いてみる。
G-SHOCKはマニアが多く情報も豊富であるので、ここで特筆すべき情報はあまりない。
マニアではなく設計者としての視点でいつも通りリバースエンジニアリングしていくこととする。
G-SHOCKといえば、1990年代「落としても壊れない時計」として大ブームを巻き起こした伝説的な時計だ。
あの時の熱量は今思い返しても異常であった。
中でもDW-5600は、映画「スピード」でキアヌリーブスがつけていたことから「スピードモデル」と呼ばれ、今でもただならぬオーラを放っている。
他にも高所から落下させたり、ホッケー選手が打ち出してみたりと、その宣伝効果とブランディングで大成功を収めた時計といえる。
当時はプレミアムがつき手に入れることさえ難しかった。
しかし、今ではまあまあ転がってはいるし、プレミアムなしの新品で手に入れることも可能だ。
そして、時計が趣味にもかかわらず、いままでG-SHOCKを手にしたことがなかった。
そのため、今回、当時モノを手に入れてみた次第であるが、まあ、こんなものだろう。
壊れないと言われれば、どの程度か試したくなるのが人の性である。
そのせいか、徹底的に手荒に扱われた個体が多い。
そしてきれいな個体はマニアが貯蔵していると思われる。
そして、注意点としては落としても壊れない時計であるが、置いておけば加水分解していく時計でもある。
当時モノかつ保管状態の悪いものは、上記写真のような状態になっているものがほどんどであろう。
「落としても壊れない時計」を置いておくとこんな状態になるなど誰が想像したであろう。
そして、CASIOの開発陣はこのことを知らなかったのだろうか。
ガンガン使って買い換えが前提のコンセプト
当然ながら、開発陣は経年劣化の一種である加水分解といわれるこの反応で、この樹脂ゴムがボロボロになることは知っていたであろう。
家の中にあるゴムやプラスチックがベタベタになったりボロボロになったりした経験はないだろうか。
この現象は、空気中の水分がゴム樹脂の分子内に入り込み、その分子結合を切断する現象だ。
防ぐためには湿度管理された防湿庫にでもおいておくか、定期的に乾燥させるしかない。
なんの管理もされていないような、例えば引き出しにしまっておくなどの保管方法の場合、高温多湿の日本ではべたべた、ボロボロに加水分解するだろう。
そもそも知っていてなんで対策しないんだと思うかもしれないが、いくつかの理由が考えられる。
- 耐衝撃のため外郭にはゴム樹脂が必要だった
- 荒っぽく使われるのだから、外殻は消耗品想定だった
- 外郭が破損したら買い換えられる値段だった
まあ、こんなところだろう。
一番の理由は、「落としても壊れない時計」というコンセプトを実現するため、外殻にゴム樹脂を使わざるを得なかったと推測される。
そして、開発陣が予測できていなかったのは、ここまで大ブームとなり生産が追い付かなくなった状況かと思う。
さらに、ここまで長く愛されるとも併せて予測できていなかった。
そんな、うれしい誤算のためにこのようなマニア泣かせの状況が作り出されている。
価格も定価なら当時から1~2万円程度だった。
そのため、切れた電池を交換したり破損した部品交換をするよりも新品を購入することを想定していたはずだ。
防水機能だって2年もすればパッキンの劣化によって期待できない。
それらのオーバーホールをするくらいなら、新品を買ったほうが安い価格帯、それがG-SHOCKである。
そもそも大事に扱われるコンセプトの時計なら耐衝撃性能は必要ない。
そして耐衝撃のないG-SHOCKとは、つまるところカシオスタンダードのことである。
いかにも技術者らしい合理的な考え方であると思う。
しかし、時に市場は一見無駄とも思えるオーバースペックを求める時がある。
確かめようのないオーバースペックに対価を払って、さらに機能以上のプレミア価格を支払っていたのが当時の市場である。
確かに一部の転売業者の暗躍があったとはいえ、技術者にとって市場のニーズをつかむことはとても難しいと感じた事例だ。
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広告留めネジの破損に要注意
それではゆっくりと分解しながら観察を続けよう。
外観構造は単純で樹脂ゴムベゼルが留めネジ4本で、筐体に留まっているだけだ。
幸か不幸か、デザイン的にもよく構造がわかる状態であった。
だが、加水分解したベゼルがべたついて気持ちわるい。
注意することは、加水分解した樹脂や汗、汚れが留めネジの間に入り込みネジが固着していることだ。
そして、このネジを外そうとするとネジの強度がもたずに筐体内部でネジが中折れする。
ちなみにこれを防ぐ手立てはない。
このネジは外観的な要素が強く、そもそも外すことは想定していないようなサイズだ。
そのため、折れてしまったらG-SHOCKあるあるなので、諦めたほうが早い。
サイズ的にもどうにもならない。
ちなみにこの個体のG-SHOCKの液晶表示が金色であることにいまさら気づいた。
金属ケースはマニアックなモデル
さあ、これでG-SHOCKモジュール本体があらわになった。
ここでマニアなあなたなら、わかると思うが、これはDW-5600スピードモデルの中でもさらにマニアックなやつである。
追加マニアックポイントは下記だ。
- 型名:DW-5600C
- モジュール名:901
- スクリューバックモデル
- 海外仕様 200M表示
- 金液晶 ゴールドモデル
私も一生懸命調べて、やっとでここまでたどり着いた。
現在も新品で売っているスピードモデルはDW-5600「E」と呼ばれるモデルのようだ。
「DW」は電池式のスタンダードモデルを示すようで、電波時計やソーラーなどの付加機能がないことを示している。
そして、DW-5600「C」モジュール901はキアヌリーブスのしていたモデルではあるが、厳密にはファーストモデルではないらしい。
ファーストモデルには600番台のモジュールナンバーが当てられている。
この時のケース裏蓋はスクリューバックモデルでケース材質は金属(ステンレス)が採用されていた。
そして、「200M」の表示が海外仕様を示しているらしいが、正直、SI単位系としては「200m」が正しい標記だ。
最後に金色に見える液晶は通常の液晶とは異なるらしい。
このようにマニアの方々は見るところが違う。
私のようなずぼらなものが見れば、どこが違うのか理解に苦しむ。
ただし、個人的に大きく気になっている点は、ステンレスケースであることとスクリューバックであることだ。
これは、強度と防水性の確保に大きく役立っているはずだ。
そのため、個人的に初めてのG-SHOCKの条件は、スピードモデルっぽい外観とスクリューバック+ステンレスケースであることだった。
あとは、電池を交換して、新品のベゼルとベルトを付けたらレストア完了だ。
などと軽く考えていた。
なぜ、加水分解状態で放置されているのか
正解は、保守交換部品の流通がないからだった。
頼むから新品買ってくれというCASIOさんの声が聞こえてきそうだ。
G-SHOCKの生産ペースで金型を稼働させたら、すぐに打ち止めである。
パーツを出し惜しんでいるわけでも、ブランド戦略でもなんでもない。
気にせずガンガン使い、新品を買い替えるのがG-SHOCKのコンセプトなのだ。
まさにマニア泣かせなコンセプトである。
ためしに社外部品と併せて探してみるも、とにかく見つからない。
同じ悩みを抱えている人は多くいるのではないだろうか。
たまに見つかる純正品は、目を疑う価格で取引されている。
基本的に当時モノは劣化していない保証は全くない。
購入して数か月でボロボロになっても当然であるといえる。
10~30年以上前の樹脂部品など使えないと思っていてちょうどいい。
悪いことは言わないので、怪しい流通品に注意しよう。
その価格を払うなら、特注で作ったほうが幸せになれる。
気合のある人は、3Dスキャニングからの3Dプリンタで作成すると面白いだろう。
スペシャルなG-SHOCKが作れるだろう。3Dモデルがなければ、ココナラなどで依頼してもいいだろう。
しかしながら、そこまでの気合はないので、私もしばらくの間この状態で放置する。
とにかく電池交換してみる
こんな状態なので動くかどうかわからないが、まずは電池交換してみることにする。
まずはスクリューバックケースを外していく。反時計回りに回せば外すことができる。
ケースを開けると、いかにもショックを吸収しそうなゴムクッションが姿を現す。
このクッションには等間隔に点と突起が設けられている不思議な形だ。
開発陣によるとこの突起がが変形することで衝撃を吸収するというコンセプトであるようだ。
つまりは、ゴムが劣化すると耐衝撃性は保持されないことを意味する。
密閉筐体であることからガスやオイル対策はされているようだ。
このパーツは、いくつか分解したG-SHOCKすべてに実装されていることから、重要部品の一つであることは疑いようがない。
設計的には、いかにも位置決めが大変そうな構造である。
ゴムクッションをどかすとモジュールが顔を出す。これまたゴムで囲まれるように電池が厳重に固定されている。
デジタル時計の中で電池はかなりの重量物であり、こちらの取り扱いは気を使ったに違いない。
電池型式がCR2016であり、かなり薄型のものを選定していることからも重量と厚さに気を使っていたことがうかがえる。
開発当時の時計の流行は薄型軽量であったので、このDW-5600でも大きすぎるといわれていたようだ。
現在の感覚からすると、スポーツモデルとしてはむしろ小ぶりのサイズである。
正直、私も現在の時計のサイズは大きすぎると思っている。ケースサイズはせいぜい40mmまでと思っている。
ケースサイズが1mm大きいと印象ががらりと変わる。
腕周りとのバランスを考えてケースサイズを選ぼう。
電池も耐衝撃対応のため厳重に固定されている。
両側ロックの電池押さえがあるので、片側の引っ掛けを外していく。
両側が爪で引っ掛けられているのが片側を外せば押さえがはずれる。
無事外れた。幸い電池の液漏れなどは確認できない。
正しくメンテナンスされてきた個体であるように見える。
ここから見る限り、ゴムが3重に見える。
一番外側が最も重要な防水パッキンのゴム。2年もすればその効果を失っているだろう。
その内側に見えるのがモジュールを保護する耐衝撃ゴム。
その内側には電池を保護する耐衝撃ゴム。
正確には電池からモジュールを守っているゴムであるだろう。
とにかく徹底的にゴムで重量物を覆っている構造だ。
特に必要はないが、興味本位でケースからモジュールを外してみる。
液晶が四角でケース外観も四角なのになぜかモジュールは円形である。
およそスクリューバックにするためにモジュール外形は円形をしていると推測する。
モジュールを包み込むようにゴムクッション材と前方には板バネが仕込まれている。LCD割れ対策であろう。
私の経験上、このような耐衝撃構造を考える際に最も弱い部分が液晶ガラスである。
この液晶ガラスを割らない構造がG-SHOCKの耐衝撃構造のメインであろう。
特に正面からの衝撃の対応が難しい。
どうしても視認側はものが置けないため、ガラスがむき出しになる。
このバネとゴムの変更量がそのまま耐衝撃性能に直結しているであろう。
ところでコレ採算取れてる?
ケース側を観察してみるが特にこれといった特徴は見られないが、操作ボタン部分の作りは凝った作りになっている。
各ボタン部に防水パッキンとバネが内蔵されている。これらは防水に気を使った結果と思われる。
前方の樹脂ガラスには謎のスペーサが確認できるが、これは先ほどのモジュール前方バネ受けのようだ。
前方の樹脂ガラスとのクリアランスを調整したか、印刷剥がれ防止用であるだろう。
ステンレスケースにほぼ四角に抜いた穴を見る限り4つ角の防水ラインに余裕がない。
樹脂ガラス貼り付けの歩留まりも問題になりそうだ。
もう少し金属部分が欲しいと思えるが、クリアランス確保に必要であったのだろう。
貼り付けスペーサの角を削ってまでスペースを設けている。
設計の試行錯誤の跡が見える箇所である。
なんかここまでの感じを見る限り、1万円ちょいで作れる構造ではないように見える。
このあたりが大ブームの時に供給が間に合わなかった原因だろうか。
ボタン動作改善、防水グリス塗布
古いG-SHOCKあるあるとして操作ボタンの動作が渋いものがある。
これは摺動部のオイル切れと推測し、防水シリコングリスを塗布していく。
結果としてボタンがスムーズに動くようになったので対策成功である。
ボタンの抜け止めもわざわざCリングを使うという凝りようである。
組み立てが実に煩わしかったであろうことは想像に難くない。
このあたりの構造の改善が組み立ての歩留まり向上と製造コスト低減につながっていくだろう。
SEIKO[セイコー] シリコングリス50 潤滑剤
カシオ製品にセイコーさんのグリスを使ったが特に問題はないだろう。
ものすごく粘る割にさらさらとした不思議なグリスだ。
セイコーの部品はどれも高品質で驚かされる。
やはり、ノウハウと歴史とプライドが他メーカとは段違いである。
このような細かいところで大きな差をつけるところがまさに超一流の雰囲気を醸し出す。
モジュールをケースに戻し、防水パッキンにも防水グリスを塗り込む。
これで汗程度は防いでくれると信じている。
可能であれば新品への交換が良いに決まっているが、手に入らないので今回は再利用とする。
Panasonic CR2016 1個セット リチウムコイン電池
電池を入れ替えて、押さえを固定する。
この時、ボタン電池のサイド円周部分を素手で触れてはならない。
皮脂でボタン電池がショートし発熱してしまう。
同様に上下をピンセットで挟んでもショートするのでNGである。
正解は手袋か、サイド部分をピンセットでつかむなどの対応で注意深く作業しよう。
電池を固定したら電池の「+」側とモジュールの「AC」端子をショートさせる。
これはおまじないのようなものだ。やらなくても動くときは動くし、やっても動かないときは動かない。
そして予想通り、モジュールはバネやクッションによりケース内で浮いている状態なので位置決めが実に難しい。
根気よくいい感じの位置になるまで調整を繰り返す。
モジュール位置がいい感じいなったら裏蓋を締めこんで、電池交換は完了である。
電池交換完了、動作確認OK
なんと、うれしいことに表示も動作も一通り問題はなかった。
このモデルの素敵ポイントは、搭載されているライトがELバックライトではなく、サイドからの緑LED点灯であることだ。
実にノスタルジーなモデルである。もう少し後になると当たり前のようにELバックライトである。
そのためこのLEDライトは実に味のあるものとなる。
しかしながら実用性は皆無で、暗すぎるライトなのでついているだけと認識しよう。
暗い場所では迷わずスマホの時計機能で確認すればよい。
これでベゼルを新品に変えられたら最高なのであるが、どこにもまともに流通していない状態だ。
ベゼルの件はまた今度考えることとする。何とかG-SHOCKERデビューしたいものだ。
べセルの検討についてはこちらに書いたので参考にしてもらえたらうれしい。
今後もメンテナンス情報を伝えていく。
今回は以上である。それでは、また。
まとめ
- 初めてのG-SHOCKはスピードモデルでデビュー
- 1990年代のデジタル時計ブームを牽引した伝説のモデル
- 加水分解したベゼルはどうしようもない
- 当時モノベゼルの純正品にまとも流通はないので注意する
- 電池交換はショートさせないように注意する