琺瑯文字盤のかもす独特の白を感じる
こんにちは、今回は琺瑯文字盤について書いていく。
琺瑯文字盤とはエナメルダイアルとも呼ばれ、ベースの金属板にガラス質の釉薬を焼き付けて製作する文字盤である。
最近SEIKOのプレザージュラインで琺瑯文字盤のラインナップが存在する。
製作できる職人が一人だけという、今にも途絶えそうな技術である。
そんな琺瑯ダイヤルのすごいところを並べてみる
- 琺瑯文字盤は硬く、劣化しにくい
- 琺瑯文字盤独特の白
まあ、このくらいではないだろうか。
多くの人は他の時計と異なる材質の文字盤に魅力を感じているのではないかと思う。
耐久性についても通常の文字盤とは比較にならないくらい頑丈である。
しかし、現在の塗装印刷技術は進化していて、特に文字盤の劣化を気にするようなシーンはない。
そのため、文字盤の耐久性は明確なアドバンテージにはならない。
時計のムーブメントのほうが先に寿命を迎えるだろう。
機械式ムーブメントであれば、ノーメンテで毎日使用すれば2年ほどで不調をきたしてくるからだ。
クォーツ式ムーブメントであっても10年も経てば、いつ故障してもおかしくはない。
つまり、現代においては「独特の白」これだけを求めるマニアなあなたのために少量生産されている状況である。
この違いのために、販売価格を超える価値を見出せるかどうかということになる。
むしろ販売に踏み切ったSEIKOの気合を称賛したい気分である。
なぜ琺瑯文字盤は少ないのか
私の知る限り、琺瑯文字盤を量産しているメーカーはSEIKOくらいである。
だが、そんなにすごい文字盤なら、何でもっと作らないのかという疑問がわいてくるだろう。
上記の通り、たった一つのメリット「独特の白」のために多くのリスクを冒す必要があるからだ。
ざっくり考えられるだけで下記。
- そうはいっても多くの人にとっては「ただの白」
- 文字盤としては単一、平坦となりがち
- 量産するには歩留まりが悪い
- 対応できる職人が少ない
- 結果的にコストが高い
「独特の白」とはいうものの見方を変えれば「ただの白」という事実は変わらない。
白と黒など塗装業界では、基本であり飽きるほど試行錯誤が繰り返されており、その品質と種類は星の数ほどある。
「魅力的な白」の文字盤を作ることはそう難しくないだろう。
確かに材質が異なるため「琺瑯の白」と同じにはならないが、「琺瑯の白」でなければならない理由はあまりない。
人によって見分けられる色の数は異なるので、どれも「ただの白」に見える可能性もあるのだ。
もうこれだけで、琺瑯文字盤を作ろうという気力が失せてくる。
そしていざ作ったとしても、一面琺瑯材料となるため、文字盤としては単一、平坦に見えてしまう
そのため、SEIKOの琺瑯文字盤は、気持ち程度、中央部分に凹み段差がついている。
これで、文字盤に立体感を出して視認性を向上させている。
これの元ネタはダブルサンクダイアルと呼ばれてスモールセコンド部分と中央部分で段差を作って立体感を演出する手法だ。
基本的に上級機種に用いられたディティールである。
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広告量産に不向きな琺瑯
そんな壁を乗り越えてさあ作ろうとすると今度は歩留まりの悪さにぶち当たる。
焼き物なので、釉薬を塗り付けて焼き上げるまでは結果がわからない。
一点物の焼き物であれば、それも偶然性の芸術として認識される。
しかしSEIKOが作っているのは量産品の工業製品である。
ムラだのヒビだの気泡などを味という謎の言葉で済ませることはできない。
明確な品質基準に基づいて検査し、不合格であれば廃棄となる。
つまりは、工芸品のように一点ものであれば問題ないが、工業製品の量産するには不向きなのである。
ダメ押しとして、こんなにも難しくてめんどくさい琺瑯文字盤であるが、製作できる職人は1人だという。
当然、技術管理はされているだろうが、最悪は製作不可によるカタログ落ちということになる。
こんなにもリスクだらけなのに、得られる結果は一部の人にしか伝わらない「独特の白」だけである。
売れるかどうかもわからないのだ。
ちなみに、付け足すならカメラ映りはすこぶる悪い。
なぜなら「ただの白」だからだ。
高級カメラとレンズで撮ったRAWデータには表現できるかもしれない。
しかし、JPEGに現像したときや液晶画面表示、カタログに印刷したときに表現できる色味かといえば難しいだろう。
エンドユーザーに届く事前情報はことごとく「ただの白」である。
それに対し通常のプレザージュと比較して20%は高額なこの時計を製品化した気合は素晴らしいと思う。
もし手に入れようとするなら、必ず実物をいろんな角度から見てみることをお勧めする。
色というよりは素材感の違いによる雰囲気が塗装とは異なるモノとなるだろう。
実は1950年代以前は大量に生産されていた
実は、100年ほど前にさかのぼれば琺瑯文字盤はそう珍しいものではなかった。
SEIKOの歴史で見ても、マーベル以前のローレルには琺瑯文字盤モデルが存在する。
1900年代前半は腕時計の普及期間であり、懐中時計からの移行が進んだ時期である。
そもそも腕時計は懐中時計を出さなくても素早く時間を確認するための手段であった。
戦争などの道具として用いられた。
鉄道時代を支えた懐中時計を見てみるとその多くが琺瑯文字盤となっている。
理由はいくつか考えられるが、現代とは異なり時計が高級品であったことが大きい。
懐中時計はムーブメントとケースのメーカが異なることは通常であった。
文字盤にはムーブメントメーカのロゴがあるため、大きくケースとムーブメントに分かれていたと思われる。
加えて、文字盤をカスタマイズ(選択)する文化もあったようだ。
いろいろな表示の文字盤を見ることができる。
そのくらい、コストをかけることができたことと、印刷、塗装技術が未成熟であったことも要因だろう。
時代によっては、文字盤の表示を筆で書く職人がいたほどである。
強靭なインクはあったようだが、インクジェットのような繊細な印刷となるとまだまだであった。
そのころの文字盤を見ると琺瑯文字盤の弱点が明らかになる。
100年近く経過した多くの琺瑯文字盤は欠けたり、クラックが入っていたりするのだ。
落としたら割れるそんな材料のようだ。
基本的にガラスであるのだから当たり前といえば当たり前だ。
蛇足だが、ダイヤショックのような耐衝撃装置はまだないので、落とせば天芯が折れ、時計として破損する。
そんなものが、自動車のような値段であったのだから気が気ではない。
落下防止、盗難防止にチェーンは必須であっただろう。
そんな、印刷、塗装技術が成熟した今となっては、琺瑯文字盤の明確なアドバンテージないといえる。
だからこそ現代に量産化したSEIKOの気合がより輝く。
そんな、バックグラウンドを感じられるならば、「独特の白」以上の価値を見出すことができるだろう。
そう、琺瑯文字盤もまたキラキラ文字盤と同じく、すべてのネガを受け入れたときにあなただけに輝くスペシャルな文字盤なのだ。
そんな素敵な文字盤に出会えたなら幸せであろう。
今回はここまでとする。それではまた。
まとめ
- 独特の白が魅力の琺瑯文字盤
- 琺瑯文字盤は量産が難しい
- 100年前は必要な文字盤
- 現代では不要な文字盤
- だからこそ現代で輝く文字盤
- あなただけに見せる美しさ