時計の精度の差は振り子の構造の差
こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう。
今回は、時計の精度を司る振り子(テンプ)について書いていく。
いうまでもなく時計とは、時刻を知るための道具である。
その正確さこそが時計の存在意義であり、存在価値であることは疑う余地がない。
それは機械式時計であろうと電波時計であろうと変わりはない。
古くから人は、より正確な時間を知ることのできる時計を作り続けてきた。
時間とは人間が知覚できない概念であり、時間を知ることでより多くのことを有利に進めることができるからだ。
そして、純粋に時計の機能に絞って機械式時計とクォーツ式時計と比較すると、機械式時計が優れている部分は皆無と言っていい。
まずは、時計の基本機能である精度であるが、これは論ずるまでもなくクォーツ時計の圧勝である。
加えて電波時計で時刻補正を行えば、より正確な時を知ることができる。
確かに入念に調整された機械式時計は、歯車とゼンマイで構成されているとは思えない驚きの精度を示す。
しかし、それ以上にクォーツ時計の精度はまさに桁違いである。
ではその差は何から来るのか。
機械式時計とクォーツ式時計の精度の差は、時を刻んでいる振り子の構造の差である。
機械式とクォーツ式の振動数の差
時計の精度の差でよく言われるのは振動数の違いである。
振動数とは、時計の振り子の振れるスピードである。
振り子時計や柱時計というと、カッチ、コッチと大きな振り子がゆっくりと振れている様を思い浮かべるだろう。
時計は時間を測るための振り子、またはそれに代わるものを利用して、時刻を示している。
ただ、柱時計などと比較して目立たなくなっているだけだ。
一般的な時計であれば、振り子をどれだけ正確に振ることができるかが、時計の精度であるといえる。
柱時計や振り子時計といわれるものは、回転軸に固定された棒の先に錘を付け、地球の重力で落下する周期が一定であるという原理を利用して時刻を示している。
振り子となっている回転軸と錘との距離だけで、振り子の振動数は決まるのである。
不思議なことに振り子の振れ角や錘の重さは振り子の振動数に直接影響しない。
振り子の回転軸から錘の距離が遠いほど、ゆっくりと振り子は振れる。
ちょうどメトロノームと同じ原理である。
錘を重くすることで、空気抵抗や摩擦抵抗などによる外乱の影響を小さくすることができる。
例えば、大きく重い振り子をゆっくりと正確に1秒/回で振れるよう調整すると正確な時を刻むことができる。
より小型の機械式腕時計であっても、その基本は変わらない。
振り子はテンプと言われる回転する小型の輪っかをヒゲゼンマイというバネで振動させるバネ振り子となっている。
錘の代わりに回転する金属の輪っかを搭載し、重力の代わりにバネを搭載しているのだ。
要するに定常振動するものを針の動きに変換すれば、なんでも時計になり得るのである。
一般的な機械式腕時計であれば5〜10回/秒という驚異的なスピードで振り子が往復運動を繰り返している。
ちなみに10振動機であれば0.1秒に一回振り子は振れている。
一方で、クォーツ式時計の振り子は、圧電素子である水晶に電圧を加えて高速振動させている。
その振動数は32768回/秒であり、0.00003秒に1回振れている。
まさに機械式時計とは別次元の振動数である。
これだけ見ても機械式時計とクォーツ式時計が全く別物であることがわかる。
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広告機械式時計の誤差要因はテンプそのもの
しかしながら、機械式腕時計の精度の限界を決めているのは振動数ではない。
なぜなら振動数に関係なく、マスターとなる時計のタイミングに振り子の振動数を調整すれば精度が出せるからである。
一般的には時報かパソコンの時計にでも合わせ込めばいいだろう。
振り子が1秒間に1回振れようが、10回だろうが、30000回だろうが、1秒はいつも1秒である。
そのため、時計の振動数は直接精度に影響していないことがわかる。
では、機械式腕時計はなぜずれるのか、その要因として大きいもの以下の2つである。
- 着用時の姿勢の変化
- 質量のある円盤を回転させている構造
腕時計はその特性上、常に方向を変えられている。
人間が身に着けて活動しているのだから当たり前といえば当たり前だ。
もう一つは質量のある円盤を回転させているテンプの構造そのものである。
これがある限り理論上、機械式時計の誤差は無くならない。
質量のある円盤を回転させるとジャイロ効果(回転慣性力)が発生する。
自転車やバイクが倒れずにまっすぐ進める理由と同様の力だ。
詳しくは別記事で説明しているが、ざっくり言うと姿勢変化する際に円盤に回転トルクが発生する。
つまり、腕時計をつけた状態で、腕を振ったりするとテンプの回転スピードが一時的に変化する。
腕を振るたびに微小ながら誤差が発生するのだ。
より大きく、より重いものが、より高速で回っているほどその影響は大きい。
さらに細かいが、重力方向により歯車にかかる摩擦力が異なるため、高速動作しているテンプの回転速度は微妙に変わる。
想定方向が少なくとも6方向あるにも関わらず大抵の場合は、テンプとその調整機構は1個だけである。
そのため、機械式時計しかなかった頃はトゥールビヨンなど、姿勢による誤差を小さくするために、いろいろな試行錯誤が繰り返されていた。
そんなところに、最大の誤差要因であるテンプを持たないクォーツ時計が安く大量に流れ込んできた。
その結果、機械式時計の精度について議論すること自体があまり意味のないこととなってしまった。
「数百年も続いた機械式時計の全否定」これがクォーツショックの内容である。
機械式時計はロマンに溢れている
では、機械式時計に必要な精度とはどの程度だろうか。
それは、人により違うかと思うが、個人的に機械式時計の精度は±5分/日以内であれば十分である。
1日で時計をつけている時間はせいぜい12時間程度とすると誤差は2.5分程度、5分前行動を心がけていれば大きな問題にはならない。
ずれた分は毎日のゼンマイ巻きの時にでも合わせれば良い。
自動巻きであっても時刻合わせの作業は、ほぼ10秒もあれば終わるであろう。
同様にハック機能で秒針を合わせる行為も機械式時計においてはあまり意味がない。
アンティーク機械式時計であればなおさらである。
もし、より精度が必要なのであれば、1,000円でクォーツ式時計を手に入れたほうが問題を解決できる。
そんなことは100も承知で機械式時計を買い求める人が多くいることは、機械式時計には精度を超える魅力が多く詰まっていることを意味している。
それはとてもロマンチックだ。私も機械式時計の魅力に取り憑かれているから実感できている。
コンピューターをはじめソフトへの負荷が急速に拡大する現代において、ゼンマイと歯車で構成された時計がこんなにも正確に時を刻む姿は、ある種の感動を覚える。
そんな機械式時計のムーブメントを見ながら時間を忘れるのはなんとも心地いいのである。
今回はここまでとする。
つたない、文章ではあるが、少しでも楽しんでいただければ幸いである。
今後とも時計について書いていくのでよろしく。
それではまた。
まとめ
- 時計の振動数は精度とは直接関係ない
- 機械式時計の誤差の要因はテンプ構造そのもの
- リアリストはクォーツ式の時計を好む
- ロマンチストは機械式の時計を好む