ゆっくり落ち着いて確実に組み立てる
分解した機械式時計の組み立てである。
文字で書く分には「分解と逆の手順で組み付ける」のみとなるが、その難易度は分解よりもはるかに難しい。
簡単に注意ポイントを挙げて書いて行くので、根気よく丁寧に組み立てていこう。
初めての時は、分解に2時間ほど、組み立てに4時間ほどかかっている。
コツは反復あるのみで20回もやれば2時間ほどで分解組み立てが完了する。
そこはプロではないのでゆるく楽しんでやっていければ良い。
部品の洗浄は超音波洗浄機を使う
まずは部品を超音波洗浄機などで洗浄する。
部品が小さいので見えない汚れなどを取り除くので便利だ。
メガネや髭剃りなども洗浄できるので是非一家に一台備え付けておこう。
洗浄が終わったら水分を拭き取り、よく乾かしておく。
ここで注意することは、洗浄する部品や時間を考慮することだ、超音波洗浄機は超高速振動で汚れを降り落とす。
言い換えると細かい衝撃が連続で負荷されることなる。
この時、ルビーなどは見えないほどのヒビが入っているとほぼ確実に割れる。
地盤に圧入されているルビーが破損すると、素人にはほぼ修理不能となる。
削り出しの金属を圧入する方法があるが、私は道具と技術を持ち合わせていない。
個人的見解であるが、具体的な部品でいうとアンクルは超音波洗浄しない。上記理由により先端のルビーが破損、脱落の可能性があるからだ。
テンプについても繊細な部品のため、10秒程度で引き上げる。
また香箱もグリスが大量に使われているため、超音波洗浄せずに拭き取り、注油程度。
当然文字盤や針などの繊細な部品も洗浄しない。
ステンレスケースなどは、超音波洗浄後にコンパウンドで磨きこんでおくと良い。
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広告分解と逆の手順で組み立てる
ムーブメントを組み立ていく。
各部ルビーに時計用オイルを注油し、地盤に2番車とアンクルを設置、プレートを取り付けネジで固定する。
※絵面が同じであるので、写真はほぼ使い回しとなるがご容赦願いたい。
以上のようにとても簡単に書いてはいるが、最初のうちはアンクルの軸はホゾにはまらない。
しっかりとホゾという穴に軸がはまっていてアンクルが首振り動作することを確認してからネジを締め付ける。
はまっていない状態でネジを締め付けると軸かルビーが破損する可能性がある。
ネジ締め付け後も念のため再度アンクルの首振りを確認する。
アンクルの首振りができないとテンプに動力を供給することができない。
機械式時計にとって磁力は大敵
さらに分解する時は気にならなかったかもしれないが、組立時にはドライバーやピンセット、ネジが磁力を帯びていると作業性を著しく損なう。
必要に応じて脱磁機を導入しよう。なお、ヒゲゼンマイが磁化すると精度にも影響する。
テンプも同様にホゾに軸がはまっていることを確認してネジを締め付ける。
アンクルよりは容易に組み付けできる。
組み付け後にテンプが触れることを確認する。ヒゲゼンマイの変形には特に気をつけること。
変形すると時計が正しく動作しなくなる。
日差20分以上あるものはここが変形していることが多い。
基本的にヒゲゼンマイが変形すると時計は早く進むようになる。
歯車を丁寧に組み付ける
ガンギ車、3番車、4番車を設置。同様に地盤のホゾに歯車の軸をはめる。
輪列を固定するプレートをはめる。
こちらも締め付け前に軸がはまっているか確認する。
このプレートは3つの軸を同時にはめるので難易度が高いが、機械式時計としては組みやすい部類に入る。
設計時の細かな気遣いが組み立てを容易にしているようだ。
歯車に軽くトルクを加え、テンプが動作することを確認する。
ここで動作しない場合は、組み上げても動作しないので、もう一度分解して、当該部分を組み直す。
そもそも破損など不具合が発生した場合も動作しない。
動力部の組み立ては難しくない
1番車を固定するプレートを取り付ける。こちらは問題なく取り付けできる。
角穴車を取り付けして、ムーブメントの組み立ては完了である。
リューズを巻いて、巻き上げ動作とテンプが動作することを確認する。
テンプは元気よく動作を始め不動品であったムーブメントが蘇った。この瞬間の感動は病みつきになる。
ムーブメントをケースに組み込む
ムーブメントに時針の歯車と文字盤を取り付け、ケースに固定。針を傷つけないように丁寧に圧入したらベゼルと裏フタをはめ込んだら組み立ては完了。
気をつけることは、針を圧入する際に変形させないことと、12:00に合わせて時針と分針を圧入すること。
作業そのものはムーブメントの組み立てができたのであれば難しいことはない。
最後にケースの外観部分をコンパウンドで磨きこんで完成だ。
文字盤の汚れやケースと風防の傷も目立たない程度に消すことができた。
分解前よりも綺麗に組み上がったことがわかる。
時計の稼働と精度を確認する
次は、時計が正しく動いているかを確認する。
リューズを一杯まで回し、時刻を合わせ、12〜24時間ほど放置して稼働し続けるか、どの程度ずれるかを確認する。
途中で止まっている場合は、何かしら不具合が発生している。
アンティークとはいえ24時間程度は稼働してほしいものだ。ゼンマイのへたりや歯車の変形、針の引っ掛かりなどを疑おう。
時刻のずれが、個人的な許容の範囲外であった場合は歩度調整を実施する。
テンプの中心のルビーからレバーが出ている。そしてルビー下側には切り欠きと目盛りと「+」「−」の表記がある。
レバーを操作し切り欠きを「+」側に動かすと早く進み「ー」側に動かすと遅く進む。
どのくらいかと言われると難しいが、基本的にはタイムグラファーを用いながら精度を追い込んでいく。
タイムグラファーはアンクルとガンギが衝突する音をマイクで拾うことで、秒針の進むタイミングを計っている。
本機は5振動機であるので1秒間に5回、1時間で18000回衝突音が発生する。
すると本機の実測では17995回とのこと。
つまりは調整の結果、約-19秒/日程度となった。
実用に問題のない程度と判断し、調整完了とする。
ここは、素人がムキになって追い込むような内容ではない。
他記事で書くが機械式時計に精度を求めてはいけない。
この時点で±10分/日以内であれば実用に問題はない。
理想は1本の水平線が表示される状態である。
調整のコツとしては、経年劣化で時計は進み気味になるので、ややマイナス側への調整が良い。
また、歩度調整レバーによる調整範囲はせいぜい±5分程度だ。
組んだ状態で±20分/日以上もずれるような状態ならヒゲゼンマイが破損しているか、何かが破損している。
調整範囲を超えた調整レバーの操作はヒゲゼンマイの破損につながるので行ってはならない。
以上で組立は完了である。
今後もメンテナンス情報を書いていく。今回はここまで、それではまた。