年差クォーツという考え方
こんにちは、今回は年差クォーツについて書いていく。
念のため年差クォーツって何かというと、1年間で数秒ずれる程度の精度の時計のことである。
いうまでもなく、時計の最重要基本機能とは、正確な時刻を知れることである。
つまりズレのない時計こそが理想の時計である条件の一つなのである。
しかしながら、実際にズレのない時計は標準時刻を示す時計以外に存在しない。
それでも、我々のような一般市民が通常に生活する場面において秒単位で物事をとらえることは稀である。
朝ごはんの時間が9時だとして、10秒遅れたり、10秒早くなっても大きな差は感じないだろう。
学校の始業時刻や仕事の出勤時刻は重要であるが、遅れないように10秒早めに出る人は少ないだろう。
だから、実用的な時計の精度は、人によって多少異なるが、1日(日差)±5分以下もあれば十分ではないかと思う。
参考に、代表的な自動巻き機械式時計であるSEIKO5の日差は±40秒程度とされている場合が多いかと思う。
しかしながら、時計屋はそうも言ってられない。理想的な時計を作るため日夜努力を怠らないのだ。
1990年代以降は電波時計が普及し始め、2012年以降はGPSを利用し、標準時刻に「補正」することで、正確な時刻を知ることができるようになった。
これは、もし補正した時刻を表示し続けられれば、使用する時計端末自体に精度という考え方そのものが不要であることを意味している。
まさにクォーツショック以来のパラダイムシフトである。SEIKOがGPSソーラー時計にアストロンの名前を使用した気持ちもわかる気がする。
そんな「時刻補正」という機能が実用化される前の1970~1980年代における腕時計の精度競争で生み出されたのが年差クォーツである。
年差クォーツの精度と新たな付加価値
では年差クォーツの精度はどのくらいなのか、いくつか比較して見てみよう。
今回は、比較のためスプリングドライブをクォーツ式に分類している。
【機械式腕時計】
- SEIKO5 4R36 日差±40秒
- グランドセイコー 9S 日差±5秒
- グランドセイコー V.F.A(1969年) 日差±2秒
【クォーツ式腕時計(月差)】
- グランドセイコー 9R(スプリングドライブ) 月差±15秒
- アストロン 35SQ(1969年) 月差±5秒
- グランドクォーツ 4843(1975年) 月差±5秒
- スーペリアクォーツ 3883(1974年) 月差±2秒
【クォーツ式腕時計(年差)】
- グランドセイコー 9F 年差±10秒
- グランドツインクォーツ 9943(1978年) 年差±10秒
- スーペリアツインクォーツ 9983(1978年) 年差±5秒
ざっくりとこんな感じである。機械式時計の精度を追求して日差数秒、クォーツを使用して月差数秒、ツインクォーツで温度補正を組み込むことで年差数秒を実現している。
しかしながら、1980年代にもなると時計はファションの一部として組み込まれていく。「年差クォーツ」という過剰スペックな価値観は消費者に受け入れられなかったようで、販売は低迷したようだ。
確かに日差30秒で1か月使用すれば15分ほどズレるということになるので、ある程度、時刻合わせという作業が必要になるだろう。
しかし、月差10秒で1年間使用しても2分ズレるかどうかといったレベルになると、2年ごとの電池交換の時に時刻合わせすれば十分な人すらいるだろう。
つまり、年差ともなると体感が難しいため、精度ではない付加価値が腕時計には必要になってきたといえる。具体的にはストップウォッチのような付加機能や若々しくかっこいいデザイン、薄く、軽くつけてることを忘れるようなサイズなどだろう。
1990年以降では、つけていることを強調するような大きく、重く、ごつい、頑丈な腕時計も流行した。
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広告腕時計の精度、堅牢制について
そんな歴史があるため、1990年代にはすでに腕時計がズレる、壊れるなどと言う認識はない。気づいたときに5分もずれていれば「故障している」、落として壊れたり、水が入れば「不良品」と判断する人もいるくらいだろう。
高級な機械式腕時計を購入して、その精度の悪さや耐衝撃性の弱さに驚く人がいるのも無理はない話である。
また、反対に1年ほど使用した機械式時計の精度が日差1分でスペック外になったから、「故障している」「オーバーホール時期」「偽物」と判断するのも早計であるかと思う。
スペックとは少なくともメーカー出荷検査時の値である。新品購入の保証期間内であれば対応してくれるとは思うが、およそ、試験環境下で再測定を実施して、異常あれば歩度調整というヒゲゼンマイの調整をして終了となるだろう。
個人的には、あんな構造(回転式振り子)で日差5~40秒、耐衝撃、防水仕様を持った機械式時計を量産できるほうが異常であると感じている。
やっぱり精度が時計の基本機能
前述のように腕時計は時刻補正機能、ファッション性、堅牢制などの付加機能を追加して進化してきた。しかしながら、時計単体の精度はやはり重要な要素である。
特に時刻補正機能があるからといって、時計単体の精度を軽視することは本末転倒であるといえる。時刻補正機能のある時計であれば、たとえ1時間ごとに時刻補正するとしても、時刻補正できない場合を考慮して、月差数秒程度の精度は確保すべきである。
クォーツ式時計であっても適切に調整しなければ、そんな精度を確保することはできないだろう。時刻補正機能を搭載したからといって、精度の調整や検査を怠ってはならないと感じている。
電圧低下や建物内など電波受信できない条件はいくらでもある。
ちなみに電波時計用の電波塔がある国は、日本を含め5か国とのことなので、頭の片隅に置いておこう。
アストロンのようにGPSを使用した時刻補正であれば、その他の国でも使用することが可能である。
「時刻補正なんて邪道だぜ」そんなあなたにお勧めできるのが、年差クォーツ腕時計である。
今回はここまでとする。
本記事がステキな時計ライフの一助になれば幸いである。
まとめ
- 1年に数秒という精度の年差クォーツ
- 1970年代の精度競争で生まれた
- 時刻補正機能の出現と過剰スペック
- やっぱり時計の基本機能のひとつは精度
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