物理法則を知る-タイヤの摩擦力

摩擦力が車両の走行に重要な要素

こんにちは、交通安全とより幸せなバイクライフのため、物理法則について書いていく。

今回は、バイクが走行するうえで重要な物理法則である摩擦力について取り上げる。

バイクにとって重要な物理法則は多くある.

中でも私は「摩擦力」が最も重要な物理法則のうちの一つであると思う。

この摩擦力とは何かを理解して乗車するとより安全運転に役立つだろう。

公道を走行しているとバイクに限らず、特に車に乗っている方は物理法則を本当に理解しているのか疑問に思うことが多々ある。

車両において摩擦力が活躍しているわかりやすい例が下記である。

  • タイヤと道路との摩擦力
  • ブレーキとブレーキディスクとの摩擦力

ブレーキとブレーキディスクとの摩擦力はあまり説明するまでもない。

タイヤの回転を止めるための摩擦力である。こちらが不足することはほとんどない。

さらに状況によって性能が変化する要素も少ないからだ。

より重要で理解が必要なのは、バイクにおけるタイヤと道路との摩擦力である。

これは、状況によって2倍近くも性能が変化する要素である。

  1. 道路の上でタイヤが滑るまでに必要な力(静止摩擦力)。
  2. 道路の上でタイヤが滑っているときの抵抗力(動摩擦力)。

①は通常のグリップ走行時の状態。②はホイールスピンした状態である。

この摩擦力はタイヤの性能と道路の路面状態によってのみ決まる。

これがどれだけ重要なことかを理解することが必要になる。

摩擦係数のみが限界性能を決める

そう、ワイドな極太タイヤや高性能サスペンション、自慢のドライビングテクニックなどは、グリップ力の向上にはほぼ役に立たないのだ。

その事実は下記の物理方程式が示している。

摩擦力F=垂直抗力N×摩擦係数μ

ここで垂直抗力Nは、ほぼ車重と考えて差し支えない。

摩擦係数μはタイヤと道路の組み合わせによって決まる数字である。

すると車重が重いほうが、タイヤが滑りにくくなるではないかと思うかもしれない。

しかし重要な公式がもう一つある。

力F=質量m×加速力a

これらの2式を整理すると下記になる。

加速力a=重力加速度g×摩擦係数μ

この式はつまり、加速するとき、減速するとき、曲がるときは摩擦係数のみが作用することを示している。

加速するときはその加速度、減速するときはマイナス方向の加速度、曲がる時は角加速度。

つまり、これらの限界値はタイヤと道路状況によってのみ決まる。

この事実を利用すると既知のコースの標準タイムが簡単に計算できる。

この時、タイヤの性能変化と荷重移動については考慮していない。

もし「俺は運転がうまいかから速く走れる」などと言う人がいれば、それは無知な人である。

正しくは「俺は道路状況を事前にチェックしており、摩擦係数〇〇を想定しているため、グリップに20%余裕を持った状態で平均速度〇〇km/hで走れる見込みがある」

プロドライバーならこの程度は当たり前に語れるだろう。

タイヤと道路状況以外に車両の限界速度を決める要素はない。

ちなみにタイヤと道路の摩擦係数の参考値を記載しておく。

  • ドライコンディション  約0.8
  • ウェットコンディション 約0.4~0.6
  • 積雪コンディション   約0.2~0.5
  • 氷結コンディション   約0.1~0.2

この数字は実に重要である。路面が濡れているだけで車両の走行性能は約半分になる。

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摩擦力は有限でエンジンパワーはオーバースペック

バイクに乗るうえで最も意識するべきなのは、エンジンパワーなどではなく、タイヤと道路との摩擦力である。

車輪を使った乗り物は、車も含めてタイヤの摩擦力以上のパフォーマンスを発揮することはできないからだ。

現状、ほぼすべての動力付き車両について、タイヤスペックに対し、エンジンスペックが大幅にオーバースペックであるといえる。

F-1やMoto GPなどでもタイヤの性能向上はタイムの短縮に直結している。

では、どんな時にタイヤの摩擦力はバイクの走行に関係しているのだろうか。

  • 走る(加速)
  • 曲がる
  • 止まる(減速)

そう、つまり全部である。タイヤの摩擦力なしでは、車輪を用いた乗り物は何もできない。

特に意識すべきは曲がる時だ。

走る時(加速中)はタイヤが滑っても大したことはないし、ほとんど意識することはない。

止まる時(制動中)はタイヤが滑ると制動距離が延びるので、多くの人が意識している。

さらに最近はABSがついているのであまり心配はいらない。

問題は曲がる時なのである。

曲がる時はリカバリーが効かない

当たり前であるが、曲がる時にタイヤの摩擦力の限界を超えると車両は曲がらない。

ハンドルを切っても、ブレーキを踏んでも、アクセルを開けても車両は直進する。

あとは運が良ければ壁に貼り付いて止まることができる。

よって、カーブへの侵入速度は確実にコントロールする必要がある。

具体的に言えば、ブレーキを踏んで、スピードをコントロールするとともに前輪側に荷重を移し、摩擦力を上げることだ。

しかしながら、ものすごいスピードでノーブレーキのままカーブへ侵入する車両のなんと多いことか。

ほんの一瞬でもいいからブレーキを踏んでからカーブに侵入しよう。

バイクの場合は、荷重移動しないと曲がらないことが多いので、大抵の人は無意識に実施している。

しかし、特に高級ミニバンに乗っている方は気を付けていただきたい。

高性能ゆえにタイヤの限界をつかみづらい。

基本的にタイヤのグリップ力が高いほど、車両の重心が低いほど安定して曲がることができる。

常にタイヤの摩擦力を意識して運転しよう。

特に高性能タイヤほど摩擦力の限界をつかみづらいといえる。

さらに道路環境によって摩擦力は驚くほど変わる。

最初の1mが大丈夫であっても次の1mも同じ道路状況であるとは限らない。

マンホールや氷や砂利などはまだわかりやすいが、アスファルトの継ぎ目で摩擦力が異なる可能性もある。

要するに何が起こるかわからないので、十分に速度をコントロールした状態で曲がる必要がある。

これらを理解できない方が、目を疑うようなスピードでカーブに侵入できるのだ。

それは運転がうまいからではない、知らないからである。

物理法則を知ることで、一つでも事故が減ればよいと切に願っている。

それではまた。

まとめ

  • 車両の性能はタイヤと道路の摩擦係数によってのみ決まる
  • ほとんどの車両はタイヤの性能に対してエンジン性能がオーバースペック
  • 道路状況により摩擦係数は変動する