スズキにこんなバイクあったっけ?
こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう!
今回は、スズキのリリースした悲しい車種の一つ、TL1000Rを紹介する。
このバイクは1998年というバイク業界が史上最も過熱していた最後の時期にリリースされた。
そう300km/h規制前、各社が競って300kmを超える世界最速の市販車をリリースしようとしていた時期だ。
そんな最高時速スペック競争に終止符を打ったのが、あのスズキのハヤブサである。
以降は最高時速を競う広告や300km/hのメーター表示などが自主規制となった。
そんな熱い時期にリリースされたTL1000Rであるが、その知名度はあまりに低い。
「こんなバイクあったっけ?」「何処のバイクですか?」大抵の人がそんな反応である。
タンクに「SUZUKI」サイドカウルには「TL1000R」と大きく記載してあるにもかかわらずだ。
何せスズキのバイクショップの人でさえ同じ反応だったので無理はない。
所有してから14年以上になるが、すれ違った台数は片手で数えるほどである。
年式が古いこともあるが、発売当時から圧倒的な不人気で、わずか数年で販売を終えた悲しい車種だ。
当時の市場に評価されなかった主な原因は、開発背景とぱっと見で中途半端なスペックだろう。
開発背景としては、スーパーバイクレギュレーションで勝つために生み出されたスーパーバイクであったが、途中でレギュレーション変更となった。
スペックとしては排気量995cc、最高出力135PS、最高速260km/hとVツインエンジンとしては素晴らしいスペックであったが、周り中にメガスポーツがあふれており、それらと比較して見劣りしていた。
そう、当時の消費者は300km/h越えの世界最速のバイクが欲しかったのである。
以下にTL1000Rの悲しいポイントをまとめてみた。
- あのハヤブサとほぼ同時期にリリース
- スーパーバイクのレギュレーションが変更(2気筒以外も1000ccで良くなった)
- レースの結果が良くなかった(GSX-750の方が速かった)
- 伝説のロータリーダンパー装備
- 悲しみのステアリングダンパー装備
TL1000S/Rなぜ売れなかった?
その大きな原因一つは、あのスーパーセールを飛ばし続ける傑作「GSX-1300R ハヤブサ」とほぼ同時デビューであったことである。
ハヤブサは「世界最速」「最高速300km/h」「1300cc」「175PS」という実にわかりやすいスペック。
そしてそれに見合う品質を備えた素晴らしいバイクで、発売開始から20年以上も続くロングセラーである。
バイクでここまで圧倒的な人気を誇る機種も珍しい。まさに名車である。
それに対してTL1000Rはどうだろう。「スーパーバイク」「Vツインエンジン」「995cc」「135PS」。
そうVツインエンジン以外の目に見えた特徴がないのだ。
しかも、その特徴的な自慢のVツインエンジンは、カウルの中にしっかりと収められている。
外見からはVツインエンジンを搭載していることはほどんどわからない。
正直、知らない人が見ればGSX−Rと見間違うほどの外観だ。
特にブルー×ホワイト色については、そのデザインによりカウル形状がわかりにくくなってしまった。
そして、当時もスーパースポーツの定番であるGSX−750とGSX−1000は同時にラインナップされていた。
そんな中で、エンジンパワーとレスポンスで直列4気筒に劣るVツインエンジンは、当時の市場に評価されることはなかった。
しかも、公道走行チューニングしてあるもののスーパーバイクレギュレーションのベース車両だ。
それゆえに公道走行のスピード域のスペックには収まりきっていない。
実に微妙な立ち位置のバイクだったのだ。
これはTL1000Rが悪いバイクなのではなく、ハヤブサやZX12Rなどのメガスポーツ全盛であり、相手が悪かったとしか言えない。
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スーパーバイクのレギュレーション変更
そもそもTL1000Rの存在意義は、最高時速について記録更新することではない。
スーパーバイクレースで勝利することにある。
当時は、4気筒エンジンは750ccまで、2気筒エンジンは1000ccまでOKという謎のレギュレーションがあった。
猛威を振るうドゥカティをうち倒すべく、スズキが開発したのがTL1000R、ホンダが開発したのがVTR1000であった。
しかし、実際にレースを始めてみると、ノウハウを持たないTL1000Rは思うように勝てなかった。
熟成を重ねたGSX-750の方が速かったのだ。
そうこうしているうちに、ついにレギュレーションが変わり、4気筒エンジンも1000ccまでOKとなった。
同時にTL1000Rはその存在理由を失ったのである。
なんと不憫なことであろうか、市場以外において、優一の輝けるステージであるレースでも結果を出せないままにその販売を終えたのである。
新技術の搭載にチャレンジ
そんな不遇のTL1000Rであるが、新開発機のため、最新技術の搭載には積極的であった。
今では当たり前であるが、当時のバイクでは普及し始めであったインジェクションやコンピューターによる自己診断機能を搭載した。
これらについては大きな破綻を起こしていないため、成功であったといえる。
しかし、今も昔もTL1000S/Rが、最もバイク乗りをザワザワさせているのは、他でもない「伝説のロータリーダンパー」である。
これは、Vツインエンジンを縦置きにした結果、従来の構造ではホイールベースが長くなり、パッケージングがきつく、旋回性能が問題になる可能性があった。
そこで、あろうことかサスペンションダンパーをロータリー方式とすることで小型化して課題を解決したのだ。
ちなみに直接の比較対象であるVTRも同様の問題に直面した。
そして、ラジエターをエンジンサイドに設置、スイングアームをエンジンに直接マウントすることで課題を解決した。
どちらが最適解であったのかは、その後の結果が示している。
ロータリーダンパーついては、良い噂を聞いたことがない。
これこそが、伝説たるゆえんであろう、私も乗っていて特に良さは感じられていない。
多くの人がリアダンパーとステアリングダンパーを交換していることから、あまり良くはないことは見て取れる。
しかし、普通に乗っている分には特に問題も感じないのが本当のところだ。
強いて言いうなら、調整段階が多く、細かく調整できることは長所といえる。
まあ、実際にその細かい調整に効果があるかは別問題である。
また、あまり多くは話題になっていないため推測であるが、VTRのほうは放熱とコストに課題を残しているだろう。
エンジンサイドに設置されたラジエターは高速走行時こそ問題にはならないが、公道環境では熱の逃げ道がない。
また、転倒時には高確率でラジエター破損による走行不能のリスクを負うだろう。
せっかくスリムになったエンジン幅もサイドラジエターで元通りだ。
各社ともVツインエンジンのパッケージングには苦慮したようである。
何を犠牲にして何を得るか、性能、コスト、ビジネスへの影響などを考慮するバランスが難しいところである。
ダメなバイクなの?
以下に、よく言われるTL1000Rのネガティブな意見をまとめてみた。
- ステアリングダンパーが動かない、邪魔。
- ロータリーダンパーが動かない、跳ねる、曲がらない
- 低回転トルクがない、すぐエンストする
- ハンドルが遠い、足つきが悪い
- 熱い、太ももが焼かれる
私の見解としては、決してダメなバイクなどではない。
熱い情熱を持って作られたすばらしいバイクである。
「とにかくパワーを出せばいいと思った」という開発者のコメントから、開発時に明確なコンセプトがあったことがわかる。
これは、良い製品づくりの条件のうちの一つであり、当たり前のようでいてなかなか難しいことだ。
実際に当時のVツインエンジンとしては、最強クラスのスペックを持ったエンジンである。
なんとこのエンジンはパワーだけでなく、ヘッドの軽量化を実施するなど低重心化も図られている。
最大回転数もアクセルレスポンスも通常のVツインエンジンとは一線を画す。
まさに、渋いほど地味な取り組みが積み重ねられた勝つためのエンジンなのである。
それを裏付けるようにTL1000S/Rのエンジンは世界中のバイクにOEM搭載されている。
イタリアのガジバラプトールやあのビモータにも搭載された。
その後SV1000やVストロームにも搭載され、2022年でもVストロームはカタログに載っている。
このことからも、コスト、性能、信頼性ともによくできた傑作エンジンであったことがわかる。
ネガティブな意見はどうして多い?
私は多くの人が、レース仕様車であることを忘れているのが原因であるとみている。
確かに、初めてこのバイクに乗った時、エンストしたし、曲がらなかった。
しかし、バタフライバルブを清掃し、排気漏れを修理したら低速トルクが出た。
2気筒エンジンのため、4気筒エンジンよりもセンシティブなのだ。
そして、ダンパーの減衰力セッティングを「標準」から「全抜き」にしてみたところ、驚くほどクルクル曲がった。
そう、想定速度域と想定負荷と想定条件がレース仕様なのである。
サスペンションやダンパーだけではなく、ガチガチのフレームもレースでの速度域を想定した設計となっている。
言うまでもないことだが、体重や速度域によってダンパーやバネ、フレーム剛性に至るまで最適なセッティングは異なる。
細かいことを言えば、コーナーごとに最適なセッティングが存在する。
つまりは、要求仕様(レース仕様)に対し真面目に作りすぎた結果、公道レベルの速度域ではセッティングが合わなくなっているのだ。
純正のステアリングダンパーについても、調整機構が付いていないことから、公道でオーバースペックになっている可能性が高い。
サーキットで200km/hからフルブレーキ、100km/hフルバンクでターンして、アクセル全開で加速してコーナーを抜ける。
そんな走り方で「標準」なのだ。
バネもダンパーもフレームも公道においては硬すぎる。
次に低回転トルクがすスカスカ、エンスト問題についてだが、これは、単純にメンテナンス不足だった。
インジェクションクリーナーでバタフライバルブのゴミを取り除こう。
10000kmも走行していれば、すでに調子が悪いはずだ。
バタフライバルブを清掃することで、低回転が驚くほど改善される。
これは車種を選ばず体感できるほどの効果があるはずだ。
燃費も改善され、TL1000Rであれば15km/l程度にはなる。
併せて排気漏れをしていないか確認しよう。
中古で購入した場合、前のオーナーがマフラーを交換している可能性がある。
売却する際は、マフラーをノーマルに戻すのが通例であるが、マフラーガスケットまで交換してくれる人は少ない。
そのため、マフラーガスケットも新品交換してみよう。
排気漏れがなくなれば低速トルクがもりもり出てくる。
それでも足りない場合は、リアスプロケットを2〜3丁ほど増やしてみよう。
低速トルクを補うことができる。あとは、クラッチミートを練習あるのみだ。
このように、ネガティブな意見はメンテナンス不足、調整不足がもたらしている場合が多い。
特にバタフライバルブの清掃はあまり話題にならないが、オイル交換と同じくらい重要なメンテナンスである。
最後になるが、ハンドルが遠い、太ももが焼かれるのは、もうどうにもならない。
ただでさえ足つきが悪いのに、2番気筒が股下にあるからだ。
サーキットで信号待ちはないため、問題にならない。
ありえない値段だが、オプションでヒートガードなるものが販売されている。
なんだか、悲しくなってきたので今回はここまでとする。
引き続き、バイクの情報を発信していくので参考にしてもらえたら嬉しい。
それでは、また。
まとめ
- ハヤブサの陰に隠れ、レギュレーションに振り回された悲しいバイク
- 開発者の熱い思いで開発された個性的なバイク。
- 適切なメンテナンスと理解でよくできたバイクだとわかる
- バタフライバルブはこまめに清掃すること
- ハンドルと太ももは諦める。
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