
CADと設計の違い
「CADは使えるのに、なぜか設計レビューで通らない」
これは新人設計者が必ずと言っていいほど直面する壁である。
3Dモデルは作れる。
図面も描ける。
しかし実際のレビューでは、
- 設計意図が明確でない
- 現場で成立しない構造
- 加工できない形状
- コストが高いのではないか
など、多くの指摘を受ける。
ちなみに私は、「君のは設計じゃない、お絵描きだよ、早く設計をしてよ」といわれていた。
当時の私は、言われている意味が分からず、今でも覚えているくらいである。
その結果、私と同じく
「自分は設計に向いていないのではないか」
と悩む人も少なくないのではないだろうか。
しかし、それは能力不足や才能不足ではない。
単に“設計”の本質をまだ理解していないだけである。
言ってみれば知識と経験不足なだけである。
本記事では、
「CADオペレーター」と「本当に強い設計者」の違い
について解説する。
これを理解すると、設計を見る視点が大きく変わるはずである。
CADや図面は“道具”に過ぎない
まず最初に重要なことを述べる。
CADや図面は設計そのものではない。
CADや図面は、設計を形にするための道具に過ぎないのである。
例えば、ペンが使えるからといって誰でも小説家になれるわけではない。
それと同じである。
3D-CADばかりいじっていても、「早く設計してよ」と言われるのは当たり前のことだったのである。
なぜ勘違いが起こるのか
新人時代は、まずCAD操作を覚えることが仕事になる。
そして、3D-CADともなれば、まさに画面の向こうにリアルなものがあると錯覚しやすい。
そのため、
- モデル作成
- アセンブリ
- 図面化
ができるようになると、「設計できるようになった」と重ねて錯覚しやすい。
しかし実際には、そこはスタート地点に過ぎない。
設計とは“問題解決”である
本当の設計とは何か。
それは、
「制約条件の中で最適解を導くこと」
である。
常に設計には大量の制約が存在する
例えば製品を設計する際には、
- コスト
- 強度
- 重量
- 安全性
- 加工性
- 組立性
- メンテナンス性
- 納期
など、無数の条件が存在する。
つまり設計とは、
「ただ形を作る仕事」
ではなく、
「矛盾する条件を成立(バランス)させる仕事」
例えば、「間違いのないように全項目細部まで検討しろ」と「納期を守れ」と「安くしろ」はすべてがお互いに矛盾することが多い。
さらに、「全仕様を盛り込め」と「シンプルに作れ」とか
「小さく、軽くしろ」と「頑丈なものをつくれ」などのように、
要求は矛盾だらけであることがほとんどである。
それらに優先順位をつけ、設計意図を盛り込み、バランスさせ、最適解を作ることこそが設計といえる。
あくまで「最適」であり、「正解」や「最高(BEST)」ではないことがとても重要である。
最高のものを作っても、納期に間に合わなかったり、高すぎてはいけない
最速や最安値で作っても、仕様未達では使えない
だれかの正解であっても、誰かの不正解であったりもする。
CADだけ見てる人が陥る思考
CAD中心で考える人には共通点がある。
1. 形だけを見ている
例えば、
- きれいな形状
- モデルの完成度
- 見た目
にはこだわる。
しかし、
- 加工できるか
- 組めるか
- 壊れないか
までを考慮に入れていない。
これは非常によくある失敗例である。
CADだけ見ているとそうなってしまうのは仕方がないのである。
2. 現場を想像できない
設計図面は、現場に渡されて初めて価値を持つ。
つまり、
- 加工担当
- 組立担当
- メンテナンス担当
- 品質保証
など、多くの人が関わることが通常である。
しかしCAD中心の思考では、その視点が抜け落ちる。
その結果、
「図面上では成立しているが、現場では困る設計」
が生まれてしまうことが、しばしばある。
現場や後工程を想像しながら、設計することも必要だ
3. “なぜ”を考えていない
強い設計者は常に考えている。
- なぜこの寸法なのか
- なぜこの材料なのか
- なぜこの構造なのか
一方で、CAD中心の人は、
「前回と同じだから」
で終わってしまう。
これでは設計力は伸びない。
設計意図を明確に説明できる設計者が強い設計者といえる。
極端な言い方をすれば線1本にも設計意図を盛り込めればかなり強い
「なんでそこに線が必要なの?」
「○○という理由で、ここになければ成立しないからです」
というくらいはっきり答えられたらかなりかっこいい
強い設計者は何を見ているのか
では、本当に強い設計者は何を考えているのか。
1. 製品の使用環境
まず考えるのは、
「この製品はどこでどのように使われるのか」
である。
例えば、
- 高温環境
- 粉塵環境
- 水がかかる
- 振動がある
これだけで設計は大きく変わる。
つまり、設計は“現実”から始まるのである。
これらは、顧客からの要求仕様に出てくるとは限らないので、エンドユーザーの使用環境を考慮することも重要である。
エンドユーザーですら、本当の要求仕様を理解していないことがある。
「自動車を知らない人に何が欲しいかを聞いたら、もっと速い馬が欲しいと答えるだろう」といったたとえ話まであるくらいだ。
2. 壊れ方
強い設計者ほど、“壊れ方”を考えている。
- どこが先に壊れるか
- どんな使われ方をするか
- 想定外は何か
つまり、失敗を先回りして潰しているのである。
設計とは、
「壊れないようにする」
だけではない。
「壊れたときに危険にならない」
ことも極めて重要なのである。
そもそも「いつかは壊れる」のだから、いつどのように壊すかまで含めて、
設計の範疇であるといっていい。
例えばiPhoneなどは、手にもって使われることを想定し、
落下させたら正面のガラスから割れるように作られているように思う
だから、ガラスが割れたまま使っている人がたまにいたりするが、それは想定外の使い方だろう。
設計意図としては、正面のガラスが割れたら、それを合図にメンテナンスに出すという設計意図の可能性もある。
3. 作る人
設計者は、つい製品だけを見がちである。
しかし本当に強い人は、
「誰がどうやって作るか」
を考えている。
例えば、
- 加工しやすいか
- 溶接しやすいか
- 組立しやすいか
- 調整しやすいか
などである。
つまり、設計はいろいろな側面から“人”を理解する仕事でもある。
例えば、「あの人ならこうやれば作れる」とか「誰でもこうすれば作れる」といったことである。
4. コスト
設計でありがちなことのひとつに、
「作れるが高すぎる」
ということもある。
新人ほど、性能、精度ばかりを追いがちである。
しかし現実には、利益が出なければ製品は成立しない。
強い設計者は知っている
- 1穴増えるだけで工数が増える
- 部品点数はコストになる
- 精度はお金である
だからこそ、必要以上に複雑化しないのである。
どこまでが必要かを判断することも設計である
シンプルに見えて、過不足ないものほど作りこまれている可能性が高いといえる。
なぜ現場経験が重要なのか
設計力を上げる最短ルート。
それは、現場を見ることである。
工場を見ると世界が変わる
例えば、
- 加工機
- 溶接
- 組立ライン
- 検査工程
を見るだけで、設計の解像度は一気に上がる。
なぜか
図面の“意味”が分かるようになるからである。
すると、
「この形状は加工しづらい」
「この寸法は検査が大変である」
と自然に考えられるようになる。
新人設計者が最初にやるべきこと
では、どうすれば設計力は伸びるのか。
ざっくりいえば、知識と経験を地道に積み重ねることである。
1. 理由を言語化する
図面を描いたら、自分に問いかけるべきである。
- なぜこの寸法なのか
- なぜこの材料なのか
- なぜこの構造なのか
これを説明できるようになると、一気に成長する。
設計意図を盛り込むという作業になるだろう
自問レビューと言い換えてもいい。
2. 現場を見る
可能であれば、積極的に現場へ行くべきである。
- 加工担当
- 組立担当
- 品質保証
の話を聞くだけで、設計視点は大きく変わる。
3. 失敗事例を学ぶ
強い設計者ほど、失敗を知っている。
- なぜ壊れたのか
- なぜ不具合が起きたのか
- なぜコストが増えたのか
これを知るだけで、“危険な設計”を避けられるようになる。
4. 本を読む
設計力は、技術だけでは伸びない。
- 思考力
- 問題解決力
- 論理力
も必要である。
だからこそ、本から学ぶ価値がある。
例えば、
- 失敗の本質
- イシューからはじめよ
- 7つの習慣
などは、設計にも非常に役立つ。
まとめ
確かにCADが使えることは重要である。
しかし、それだけでは設計者にはなれない。
本当に重要なのは、
- 現場
- 加工
- 使用環境
- コスト
- 壊れ方
まで考えられることである。
つまり設計とは、
「形を描く仕事」
ではなく、
「現実を成立(バランス)させる仕事」
なのである。
新人時代は、レビューで大量に指摘されることもある。
しかし、それは成長の機会でもある。
「なぜその指摘が入ったのか」
を考え続けることで、設計力は確実に伸びていく。
そうすることで、「指摘される側」から「聞かれる側」に変わっている