PCVバルブ交換 BMW E90 LCI 320i

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作業難易度  :★★(部品落下に注意)
事故時の危険度:★★★(エンジンが冷えていることを確認すること)
体感度    :★★★★★(不調の原因はこれ、効果てきめん)
作業時間目安 :約30分
予算     :約3,000円(部品代)

PCV(Positive Crankcase Ventilation)バルブとは何だろう

こんにちは今回も元気にメンテナンスしていこう。

前回に引き続き、突然のエンジンストール対応について書いていく。まずは簡単なカムシャフトセンサーを交換してみるもエンジンストール症状は改善せずであったため、今回はPCVバルブの交換について書いていく。こちらを実施した理由も、比較的対応ハードルが低そうだったからである。

交換結果としては、効果てきめん、今回のエンジンストール症状のメイン原因であったと推定、ついに問題解決しほっと一安心である。

では、そもそもPCVバルブって何だろうというところからスタートだが、ざっくりと以下にまとめてみた。

  • PCVバルブとはクランクケース内圧力を適切に保つ弁
  • PCVとはブローバイガスをホースで吸気ラインに戻し、再燃焼させるシステム
  • ブローバイガスとは未燃焼ガスや燃焼ガス、気化したオイルなどが含まれる
  • 圧縮行程で未燃焼ガス、爆発行程で燃焼ガスがシリンダーから漏れてくる
  • ブローバイガスはクランクケース内にとどまり圧力を高めてしまうので適宜抜く必要がある
  • ブローバイガスの大気開放は環境的、法律的にNGのため、再燃焼させて処理する

PCVバルブとその機能を端的に書くと以上のようになるのだが、私の微妙な知力ではその構造と機能を具体的に理解できない。エンジン稼働の際にブローバイガスがクランクケース内に発生することと、発生したブローバイガスを吸気側に戻して再燃焼させること自体は特に問題ないとして、以下の疑問が残る。

  • なんでPCVバルブ(クランク内圧力調整)が必要なのか
  • ダイヤフラム構造だが、どのような動きで、どのように圧力調整をするのか
  • PCVバルブの破損がエンジンストールの原因となり得るのか

いくつものイメージ図を見てみるがあまり想像がつかない。私に刺さる感じに説明されたものが少ないのである。さらにPCVバルブの交換事例は比較的少ないように見えたので、これも本命ではないのかとも思われる。何なら大気開放しても技術的に問題ないのならば、直接走行に影響するものでもないようにも思う。

PCVバルブとは何かという疑問と興味がわいてきたのでもうちょっと深く考えてみたいと思う。

PCVバルブの動作と必要性

なぜPCVバルブでクランクケース内圧力の調整が必要なのか、順を追ってブローバイガスの処理を見てみよう。

  1. エンジンが稼働し続けるとブローバイガスが発生、クランクケース内が高圧となり、ピストン動作に影響を与える可能性がある。
  2. クランクケースに穴をあけブローバイガスを大気開放とするとクランクケース内はほぼ大気圧に保たれる。
  3. 大気汚染を防ぐため、吸気ラインへブローバイガスホースを接続する
  4. 吸気ラインは基本的に負圧(大気圧より低い)のためクランクケースも負圧になる
  5. クランクケース内が負圧になりすぎないようにするため調整弁で圧力を調整する

可能性としては以上であると思うが、クランクケースが負圧になりすぎてもピストン動作に影響を与えるということなのだろう。そもそも大気圧がベストなのかという疑問もわいてはくる。

続いて、PCVバルブの構造を見てみよう

  • ドーナツ型プラスチック板(黒)がゴム膜(オレンジ)に貼り付けられていて、膜に穴はない
  • ゴム中央は蓋になっていて、エンジンカバー側のダクトの痕がある
  • 上カバーはプラスチック製で中央に穴が開いている
  • シリコンゴム中央にはバネが設置されている
  • エンジンカバー側には中央と円形くぼみのふちにそれぞれ穴が開いている

およそエンジンカバー側の穴2つはブローバイラインでゴム膜が動作することで、ブローバイラインが遮断される仕組みであることは推測できる。ちなみにゴム膜上側は大気圧で、ゴム膜は下側からバネで支えられているため、ブローバイラインが負圧となり、バネ力より大きくなった時にブローバイラインが遮断されるだろう。

ではエンジンの状況でどのようにPCVバルブが動くのか考えてみる。

エンジン停止時はゴム膜をバネが支えているので当然バルブ開。エンジン始動時は基本的にブローバイガスの発生量よりも吸気量が大きいため、ブローバイラインは負圧で、一定負荷動作を一定時間経過後にクランクケース内圧力が下がりバルブ閉。ブローバイガスが一定量溜まるとバルブ開閉となる動作をを繰り返す。高負荷加速時はブローバイガスの量も増えるが、吸気量はさらに増えるのでバルブは閉。アクセルオフで初めて吸気量が減り、ブローバイラインの圧力が上昇、同時にクランクケース内圧力が開放されバルブ開となる。

まさに文字通り、PCVバルブには、エンジン回転数に応じてクランクケース内圧力を調整する、つまりは吸気側圧力とクランクケース内圧力差を一定に保つ役割があって、基本動作としては以下となる。

  • エンジン回転数上昇時にPCVバルブ閉
  • エンジン回転数キープ時にPCVバルブ開/閉ニュートラル
  • エンジン回転数下降時にPCVバルブ開

具体的にエンジン起動前→エンジン起動アイドリング→アクセルON→定常走行→アクセルOFF→アイドリングといった状態で、各部分の圧力を数値で例えると以下になる。この時、大気圧を0、ダイヤフラム部のバネによる圧力を2とする。

状態吸気圧クランク
ケース圧
バネ圧合計PCVバルブ
エンジンOFF0022
アイドリング-3120ニュートラル
アクセルON-1012-7
定常走行-10820ニュートラル
アクセルOFF-3827
アイドリング-3120ニュートラル

以上のように、合計圧力が正の時にPCVバルブは開き、負の時にPCVバルブは閉まる。吸気側の圧力に対し、クランクケース圧力の差圧を一定に保つ役割をしていて、アクセルオフの時のみPCVバルブは大きく開くと言える。クランクケース内の圧力をより下げたければ、バネ圧力を大きくすればよい。

PCVバルブはクランクケース内圧力が下がりすぎないように設けられていて、もしPCVバルブの機能がない場合は「吸気圧=クランクケース圧力」となる。また、仮にブローバイガスを大気開放するとクランクケース圧力は大気圧以下となる。

乱暴に言うならブローバイガスを再燃焼させるためだけであれば、こんなPCVバルブなんていらないのである。

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PCVバルブ破損がエンジン不調につながる理由

ここまでPCVバルブの役割と動作を分析してみたが、残された大きな疑問は、走行におおきな影響を与えるような部品に感じないので、なぜPCVバルブの破損がエンジンストールを引き起こす原因となるのかである。

そのためにこのPCVバルブの故障モードを確認してみるとゴム膜(ダイヤフラム)の亀裂である。材料と動作と環境を考えれば、この状況は珍しくもなく30000~50000km、5年ほど経過すればほぼ再現する現象ではないかと推測できる。何なら定期交換部品のようにも見える。イリジウムプラグやイグニッションコイルなんかよりよっぽど交換周期が速いだろう。

そして、ゴム膜に亀裂が入るとどうなるのかというと、ゴム膜の内外で圧力差が小さくなってしまうので、圧力調整弁が動作しにくくなる。もうすこしいえば、PCVバルブが閉まりにくくなる。

もしクランクケースに穴がなく、クランクケース内の圧力が上がり続ければ、アイドリング時にピストンの動きを阻害する可能性はあるが、PCVバルブが閉まりにくい→クランクケース内の圧力が下がり気味になる、ダイヤフラムの亀裂を考慮すれば、どちらかといえば大気開放に近い状態に近づいているといえる。

なぜ、なくても走行にほぼ支障がないもの(PCVバルブ)が動かないだけで、エンジンストールする(走行に支障が出る)のだろうか。

そんなことで悩んでいた時期がオレにもありました。

PCVだのブローバイだの小難しいことを考えすぎて単純な事実が見えてなかった。

「バタフライバルブより後ろの吸気流路に穴が開いている」問題はただそれだけのことだった。

これに気づけたときにほとんどすべての疑問が解消された。

高回転で違和感が少ないのは、高回転ではバタフライバルブは全開、吸気量が多くなり、PCVバルブの亀裂からの吸気量が相対的に少なくなったからだ。

低回転でエンジンストールするのは、バタフライバルブがほぼ全閉、吸気量が少なくなり、PCVバルブの亀裂からの吸気量が相対的に多くなり、燃料噴射マップの許容を超えていたからだ。

ラムダセンサーやインジェクター不調の可能性も捨てきれないが、今回はPCVバルブ交換で症状の改善を確認できたので、PCVバルブ劣化によるゴム膜亀裂からの2次エア吸入が、エンジンストールの主な原因であったと推定する。

こんなことは、一部の人にとっては常識であるかと思うが、あまりネット上に情報が多くないように思う。最も大きな驚きは、PCVバルブが正規に単品売りされていないことである。あくまでシリンダーヘッドカバーASSYの付属品であるようだ。5年も経ったらシリンダーヘッドカバーASSYの交換時期とでもいうのだろうか。

今回は社外輸入品(部品No.11127555212)で対応できたので問題ないが、設置位置や構造を見る限りにおいて、設計的には確実に定期交換部品である。エアクリーナーと同時か車検毎に交換でも問題ないくらいの位置に設置されており、材料と動作と環境、破損時の影響を加味すれば、重要管理部品であるため、交換前提の設計であると推測できる。ここの不具合に気づけずに嵌まっている人もいるかもしれないので、もうすこし大々的に交換を推奨してほしい部品だ。

アイドリング不調、オイル消費量増、燃費悪化、白煙、アイドリング時の不快な振動、エンジンストールで悩んでいる方は一度見てみるとよいだろう。

実際の交換については、エアコンフィルター手前にあるケーブルライナーを外し、PCVバルブのキャップ周囲の爪4か所を外して、PCVバルブ(ダイヤフラム)を交換してキャップを嵌めるだけである。経年劣化によりキャップは割れるので、こちらも同時交換しよう。キャップの嵌め合いが緩いとエア漏れにつながり症状が改善しないので、確実に嵌めるよう注意すること。

今回はここまでとする。本記事がステキなBMWライフの一助となれば幸いである。それではまた。

まとめ

  • PCVバルブはクランク内圧力を回転数に合わせて調整するもの
  • PCVバルブはクランク内圧力と吸気側圧力差を一定に保つもの
  • PCVバルブが破損すると低回転域でエンジンが不安定になる
  • PCVバルブは点火プラグよりも交換周期が短い部品
  • PCVバルブは重要部品(気密性確保部品)である認識が希薄
  • 他に複合要因があるか検討要
メンテナンスリンク集

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