
- 作業難易度 :★★★(ジャッキアップとアンダーカバー取り外し)
- 事故時の危険度:★★★★(エンジンが冷えた状態で行うこと、ジャッキ外れ対策を実施すること)
- 体感度 :★(体感出来たらかなりすごい)
- 作業時間目安 :120~180分
- 予算 :約7,000円(純正クーラント6リットル)
- メンテ周期 :5〜10年毎(気が向いたら)
- 注意点 :クーラントは必ず純正か実績のあるものを使用すること
クーラントって何?
こんにちは、今日も元気にメンテナンスしていこう!
今回はクーラント交換について書く。
クーラントとはエンジン内部の冷却水である。
多くの熱をため込むことができ、蒸発せず、凍らず、腐らず、錆びさせない、そんな液体が理想である。
いうまでもなく通常のガソリンエンジンは、燃焼室内でガソリンを燃やす。
その熱膨張を使ってピストンを動かし動力に変えている。
車の燃料にガソリンが使われる理由は、常温常圧で液体であり、ある程度の期間保管が可能で、エネルギー密度が高いからである。
ザックリいうとガソリンは比較的取り扱いがしやすく、少量で莫大なエネルギーを持っているからである。
そして、ガソリンエンジンの弱点の一つとして、とにかく熱効率が悪いということがあげられる。
そんなガソリンエネルギーの50%も動力に変換できていないのが、ガソリンエンジン現実である。
あんなにも力強く車を加速させるエネルギーと同等以上のエネルギーを大気中に熱として捨てているのだ。
その有り余る熱エネルギーは、当然ながら発熱体である燃焼体を包むピストン周りに多く集まっている。
何も考えずエンジン出力を高めていくとピストン周りの温度は上昇、ついにはピストン周りが溶解し始める。
そうならないようにピストン周りに常にクーラント(冷却水)を流し、ピストン周りの熱を奪い続ける。
奪った熱を放熱用ラジエターまで運んできてくれるのがクーラントである。
蛇足だが、出力を抑えればクーラントは不要である。実際に空冷エンジンに冷却水は使用されていない。
言い方を変えると、エンジンの小型化、高出力化、安定化、設置自由度確保のために水冷エンジンが選択されることが多いのである。
ラジエターのクーラントは交換不要か
よくある話としては、クーラントの交換は必要なのかというものである。
エンジンオイルなどと比べると交換頻度も低く地味なメンテナンスだ。
むしろBMWディーラーにおいては、クーラントの交換は推奨されていないと聞いている。
結論を書くと、「10年くらいはクーラント交換しなくても乗ることはできる。その後も特に大きな不具合は出ない可能性が高い」といった感じである。
しかしながら、個人的に交換しなくてよいオイルや液体は、自動車の内部にほとんどないと思っている。
クーラントを含む「BMWの言う交換不要」というのは、せいぜい5~7年で乗り換える前提での話であろう。
メーカの販売戦略には詳しくないが、例えば7年10万キロを目標。
つまりは、3回目の車検時に重整備が必要となるあたりで、新車の乗り換えを想定しているのではないかと推測する。
「適切なメンテナンスでコンディションを維持できるのがドイツ車」というイメージがある。
しかし、見方を変えれば「メンテナンスフリーではない車」「日本車に比べ故障の多い印象のある車」というイメージでしかない。
そのイメージを払拭したいがためのうたい文句であると推測する。
もう一つの理由として、クーラントの選定ミスを防ぎたい、作業ミスをなくしたい狙いがあると思う。
クーラントはエンジン内部とラジエターとそれをつなぐゴムホース内をウォーターポンプの圧力により循環している。
問題となるのは、クーラントに含まれる不凍、酸化防止、沸点上昇などの薬剤類である。
基本的に薬剤類の多くはゴムやプラスチックを劣化させていく。
そして、薬剤類とゴムやプラスチックの組み合わせにより、劣化の速度は大きく異なる。
まさに、ここにメーカのノウハウが詰め込まれているといっていい。
結果として、日本車と外国車の大きな品質の違いはゴムやプラスチックの品質の違いといえる。
日本での使用におけるドイツ車のゴムの劣化具合からして、日本車とはまったく別物のゴム材料が使われているといっていい。
これは、良い悪いの問題ではなく、薬剤とゴムやプラスチック類との相性の問題である。
つまり、日本で適当に選んだクーラントを外国車に入れるとゴムホースやパッキン、樹脂タンクなどを破損させる原因となる。
そこに熱や流体による圧力、気体の圧力も加わって、あっという間に劣化して液漏れになる可能性がある。
こんな、地味で目立たないクーラントではあるが、いざ漏れてなくなるとその症状は深刻である。
よくて走行不能、悪ければエンジンピストン溶解、固着によるエンジン破損である。
そんなことで「外車だから壊れた」などといわれるくらいなら、交換しないほうがよほどましである。
その中で、クーラントは比較的メンテナンスサイクルの長いものであるので、交換は不要と判断することもできる。
しかしながら、この車E90はすでにリリースから10年以上が経過している。
さすがに、クーラントもそろそろ変えてきたいものである。

BMW純正 アンチフリーズクーラント (LLC/冷却水) 1.5L



クーラント交換作業

まずは、いつも通りフロントのジャッキアップから行なう。
私はいつも通りスロープを使い車両下に作業スペースを確保する。
油圧ジャッキやパンタジャッキを使用する場合は、ジャッキが外れても大丈夫なように、車体と地面の間にホイールかブロックのようなものを挟んでおこう。
必ず1.5t程度の荷重に耐えられるものを使用すること(実際は全重量の半分程度の荷重がかかる)。

続いて、意を決して車両の下へ潜り、アンダーカバーを外す。
すると、アンダーカバーが何やら濡れてるのを発見。
ここで、次回の記事内容が決定した「BMWあるある、オイル漏れ」となる。
まあ、今回は見なかったことにして、前方アンダーカバーの留めネジを外していく。
周囲に大体18個くらいはあっただろうか。

作業中にオイル漏れ発見と軽く精神的ダメージがあったが、アンダーカバーを取り外すこと自体はそう難しくなかった。
ただめんどくさいだけだ。それよりも、写真右下アンダーカバーになんかオイル漏れ用キャッチ板金があるのは気のせいだろうか。
これがあるということは、オイル漏れはメーカ公認の仕様といったところか。
ちなみにエンジンから垂れたオイルは、焼けた排気管に落ちると焦げ臭いにおいを発生させる。
それは車内に充満するので、オイル漏れが発生していることが確認できる。

あら?アンダーカバーの中から、さらにアンダーカバーが出てきた。
フロント側はなぜかアンダーカバーが2重となっているようだ。

フロント2つ目のアンダーカバーを外した状態。
2枚目のアンダーカバーの用途は明らかではないが、補強か遮音であろうか。
ともあれこれで、やっとでラジエターの下側がお披露目される。
クーラントドレンボルトを探す

下からのぞき込んでみるとウォーターポンプらしきものが見えた。
ウォーターポンプとウォーターホースが年式の割にきれいな気がするので、過去に一度交換されている可能性もある。
整備記録にはなかったが、予防整備されているのかもしれない。
特に亀裂などの破損や劣化は見られない。

他のサイトで事前に調べたときは、ドレンボルトがあるとのことだが、記載の位置には見当たらなかった。
E90LCIで改善が行われたのだろうか、生産LOTの違いかは定かではないが、ラジエター下側に青色のドレンボルトが見つかった。
ただ、こんな大きなプラスドライバーは持っていないし、樹脂ボルトである。なめそうで怖い。
というよりも、なぜ樹脂ボルト?ラジエター本体に金属ボルトでいいような気がする。
きっと腐食防止、固着防止の樹脂ボルトであろうと推測する。
完全にメンテンナンスを考慮して作られている。
本当にクーラントの交換不要の設計であれば、ドレンボルトなど必要ないはずだ。
BMWのエンジニアもクーラント交換不要とは思っていないようなので私も安心した。
どの国でもエンジニアと営業との間には大きな溝があるようだ。
それが別の国ともなると大きな開きとなるのは想像に難くない。

そんなことを思っているとなんかいい感じのパーツを見つけた。
フロントアンダーカバーを外した時に取れた謎の金属板である。
正直これもいるのか?と思ったが、他グレードとの共通設計の影響かもしれないので、あまり考えないようにした。
しかし、これは使える。

つまりは、こういうことである。
専用工具のようにちょうどいい。
いうまでもないが、自己責任である。締め付けトルクはご愛敬。樹脂ネジを破損しない程度にやろう。


ドレンボルトを外すとチョロチョロとクーラントが出てくるので、バケツなどで受けよう。
こんなペースでは全部抜けるのに2時間くらいはかかりそうである。


あまりにクーラントのぬけが遅いので給水口を再度確認した。
キャップは開けているし、空気抜きのボルトも緩めている。

Entlüftung:ドイツ語で空気抜きとの意味らしい。
まあ、あまり抜ける速度は変わらなかった。
何なら空気を送り込んでやればいいのかもしれないが、今回はやめておく。
他に方法があるのかもしれないが他に思いつかなかった。
根気よく待って、クーラントが抜けきったらドレンボルトを元に戻す。
この間にオイル交換でもしておけばよいだろう。
クーラントを入れていく

いよいよ、給水口から新しいクーラントを入れていく。
今回は他サイトを参考に4リットルの純正クーラントを準備した。
しかし、様子がおかしい。4リットル入れたのに、水位センサーは微動だにしない。
全く足りていないようだ。応急として水道水を足していく。
結果、6リットルもの冷却水が入るようなので、少なくとも320iLCIの方は注意してほしい。
あと空気抜きのボルトなのだが、個人的見解は別に緩めなくても問題ないのではないかと思う。
確認のためキャップを開けた状態でエンジンスタートしてみた。
ウォーターポンプにより循環したクーラントがキャップ横の水面よりも上から出てきた。
つまりは循環している間にラジエター内の空気は抜けるはずだ。
あとは、クーラントに漏れが確認できなければ作業終了である。
細かい成分が確認できないため、純正クーラントを使用することが最大のポイントである。
ちなみに、走行していると徐々にクーラントの水位が減ってくる。
通常であれば、クーラントに熱がたまってくるとクーラント内の水分が蒸発する。
圧力をかけて沸点は100℃以上であるが、それを超えて熱がたまると圧力抜きの孔から水分が抜ける。
結果として、リザーバタンク内の水位が下がってアラームが鳴動することとなる。
この時、リザーバータンクに足すべきは純水である。
誤ってクーラントを足してしまうと濃度が上がって、冷却性能が下がる可能性やゴムや樹脂の劣化を加速する恐れがある。
ただし、クーラントがどこかから漏れて水位が減っている場合は、通常濃度のクーラントを足す必要がある。
この時は、どこから漏れているかを入念に確認しよう。
最悪のパターンは、クーラントラインからオイルラインへ漏れている場合だ。
外観からは全く気づくことができない。だが、基本的には水と油なのでそうそうあることではないと思う。
以上クーラントは基本的に交換の必要がないといわれることもあるが、5年以上変えていない場合は、一度考えてみるといいだろう。
今後もメンテナンス情報について書いていく。
それではまた。
まとめ
- クーラントは自動車の重要部品
- クーラント不足は走行不能、エンジン破損の危険がある
- クーラントは定期交換すべきものである
- ゴムや樹脂と薬剤系の組み合わせは繊細、純正を使用すること
- クーラントが減った時は減った原因を確認すること